本多銓子

本多銓子の生涯

日本の医師であり、公認女医としての先駆者であった本多銓子（ほんだ せんこ）は1864年に江戸で産声を上げました。彼女は卓越した頭脳を持ち、早くからその才能を開花させていきます。1871年、東京女学校に入学すると、その厳しい教育の中で首席を務めるほどの優秀な生徒として名を馳せました。信仰心も強く、キリスト教を受け入れたのもこの頃のことで、特に伯母の影響が大きかったと言われています。

1881年には、日本の女子が近代医学を学ぶ場である成医会講習所に入学しますが、当時の社会では女性が医師になることは非常に困難でした。彼女は唯一の女子学生として、男学生たちが使う道具を夜中に密かに集められないかと工夫し、また医師になるための道を切り開くために積極的に働きかけました。1884年に女子の医術開業試験の受験が認められ、銓子は1888年にその試験に合格し、日本で4人目の公認女医となります。

1889年、彼女は林学者の本多静六と結婚しましたが、家庭内でも自己の医業を続ける意欲を削ぐことはありませんでした。精神的サポートはもちろん、看護婦の養成や講義を行い、医業の傍らでは妻としての役割をしっかりと果たしました。家事を手伝う使用人がいる中でも、銓子は静六の帰りを待ちながら、スタミナをもって食事を用意しました。

静六がドイツに留学している間、銓子は自身の診療所を開業し、愛娘の成長を記した日記を送ることで静六を励ましました。しかし、静六の帰国後は家庭生活が中心となり、医業を続けるのは困難でした。さらに、次女の早逝という悲劇も彼女を襲います。これをきっかけに、銓子は医師としての道を断念せざるを得ませんでした。

家庭に専念してからも、静六の研究活動を支え、全力を尽くしましたが、彼女自身は1907年から慢性腎臓病を患い、健康状態は次第に悪化していきました。1921年には脳溢血で倒れ、静六が治療にあたりますが、同年12月、57歳で世を去ります。銓子の死は、当時敬虔なキリスト教徒としても知られ、クリスマスの日に逝去したことから、多くの人々に愛されていました。

銓子の死後、彼女の意志は遺言として、生徒たちに奨学金を設立したいというものでした。静六はその遺志を受け継ぎ、奨学金の創設を求めましたが、戦後の経済的な混乱の影響でそれは叶わなかったとされています。

彼女がいかにして家庭内を支えつつ、多くの人々に影響を与えたかを知ることができます。銓子は家計をしっかり管理し、静六の学問にも多大な貢献をしながら、同時に地域社会にも貢献してきた女性でした。彼女が医師から家庭に貢献するという道を選んだ背景には、当時の社会状況や価値観が大いに関わっていますが、彼女の献身的な姿勢は後世に今も影響を与え続けています。

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