本好きの下剋上

『本好きの下剋上〜司書になるためには手段を選んでいられません〜』は、香月美夜氏によるライトノベル作品、およびそれを原作とするメディアミックス作品です。略称は「本好き」。現代日本に生きる書物愛好家が、ある出来事によって中世ヨーロッパ風のファンタジー世界に転生し、幼い体で知識と情熱を武器に、本の制作に人生を捧げる物語です。

物語の舞台は、魔法が重要な役割を担う貴族社会が支配するエーレンフェスト。主人公は、本須麗乃（もとすうらの）という名の現代人で、前世の記憶を残したまま、マインという名の少女として生まれ変わります。紙が貴重で高価なこの世界で、マインは自身の知識と経験を活かし、紙の製造から印刷技術の開発、さらには本の出版までを成し遂げようと奮闘します。

物語は、大きく五部構成で展開します。

第一部「兵士の娘」では、平民の娘であるマインが、幼馴染のルッツと共に植物から紙を作る方法を開発し、大商人ベンノの支援を得ながら、商人見習いとして成長していく様子が描かれます。病弱な体と貧しい生活環境という逆境の中、マインは持ち前の知恵と努力で困難を乗り越えていきます。また、神官長フェルディナンドとの出会いも重要な出来事となります。

第二部「神殿の巫女見習い」では、神殿で青色巫女見習いとなったマインが、神官長フェルディナンドの庇護を受けながら印刷技術を確立し、工房「グーテンベルク」を結成する様子が描かれます。しかし、その才能ゆえに様々な陰謀に巻き込まれ、家族を守るために領主の養女となり、ローゼマインという貴族名を与えられることになります。これは、愛する家族との決別を意味する、苦渋の決断でした。

第三部「領主の養女」では、ローゼマインとなったマインが貴族として成長し、領主の養女としての役割を担いながら、印刷業や孤児院の運営、さらには自身の病弱な体質を改善するための魔法薬の開発に奔走する様子が描かれています。貴族としての生活や領主一族との交流、そして様々な陰謀や困難に立ち向かう姿が描かれ、神殿長として、孤児院長として、工房長として、そして養女として、幾つもの重責を担いながらも、自身の信条を貫き、人々の幸せを願う彼女の姿は感動を呼びます。

第四部「貴族院の自称図書委員」では、貴族院に進学したローゼマインが、図書館の魔術具を再生し、自称「図書委員」として活躍する様子が描かれています。貴族院での生活、他領地の貴族や王族との交流、そしてユルゲンシュミットの政治情勢や領地間の対立など、より大きな視点での物語展開が魅力です。

第五部「女神の化身」では、フェルディナンドが他領へ嫁いだことをきっかけに、ローゼマインが様々な困難に立ち向かう姿が描かれています。貴族院での出来事、領地間の争い、そしてユルゲンシュミットの未来をかけた戦いなど、物語はクライマックスへと向かいます。最終的にはアーレンスバッハのアウブとなり、アレキサンドリアと改名した領地で図書館都市建設に邁進するローゼマインの姿が描かれています。

本編以外にも、ハンネローレの視点で描かれた番外編「ハンネローレの貴族院五年生」が存在します。

この作品は、緻密な世界観、魅力的なキャラクター、そして社会問題や家族愛といった普遍的なテーマが複雑に絡み合う、多層的な物語です。単なる異世界ファンタジーにとどまらず、社会構造や人間模様を繊細に描き出し、読者に深い感動と共感を呼び起こす作品となっています。また、メディアミックス展開も盛んであり、コミカライズ、アニメ、ドラマCD、オーディオブックなど、様々な形で楽しむことができます。その人気は高く、『このライトノベルがすごい！』でも上位にランクインするなど、高い評価を得ています。

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