本川公衆便所

本川公衆便所：被爆の記憶を刻む唯一の便所

広島県広島市中区土橋町に位置する本川公衆便所は、原子爆弾投下から奇跡的に残った数少ない被爆建物のひとつです。しかも、便所としては唯一、広島市の被爆建物リストに登録されています。広島平和記念公園の対岸、旧太田川（本川）沿いにひっそりと佇むその建物は、70年以上の時を刻み、戦争の爪痕と、その後の平和への歩みを静かに見届けてきました。

建物の概要と歴史

鉄筋造で、面積はわずか11.57㎡。建築年や施工者といった基本的な情報は、残念ながら現存していません。爆心地から約480mという至近距離にあったため、原爆の直撃を受けながらも倒壊を免れたと考えられます。

残された資料の中には、原爆投下直後の惨状を描いた絵画があり、被爆により衣服を失った子どもたちが、この便所の水場を求めて集まり、亡くなったという悲痛な記録が残されています。この絵画は、この小さな便所が、多くの被爆者にとって、最後の安らぎを求める場所だったことを示唆しています。

1965年には広島市が所有者であったという記録が残っていますが、長い間、この便所が被爆建物であるという認識は広まっていませんでした。転機となったのは2015年。市民団体が米軍撮影の映像の中に、本川公衆便所と酷似した建物を見つけたことから調査が始まり、その結果、被爆建物であることが確定しました。同年12月、広島市は正式に被爆建物として登録しました。

未来への課題：河川整備計画と保存

国土交通省は、太田川水系の高潮・洪水対策として、2011年に河川整備計画を策定し、現在も工事が進行中です。しかし、本川公衆便所周辺の護岸工事については、具体的な工期や概要はまだ決定していません（2017年9月時点）。

国土交通省太田川河川事務所は、河川整備による本川公衆便所への影響について、「設計してみないとわからない」とコメントしており、工事の影響を最小限にするための対策として、建物の移設や一時的な移動を検討する可能性も示唆しています。

この小さな便所は、単なる建物ではなく、被爆の歴史を伝える貴重な証です。今後、河川整備計画との調和を図りながら、この歴史的建造物を未来へ継承していくための、慎重かつ綿密な対応が求められています。

今後の展望

本川公衆便所の保存は、広島、ひいては日本の歴史を保存することに直結します。被爆の歴史を風化させないためにも、この小さな便所の存在意義は、今後ますます重要になっていくでしょう。関係各所による継続的な議論と、市民の理解と協力が不可欠です。 この便所は、過去の悲劇を忘れず、平和な未来を築いていくための、重要なシンボルとして、今後もその役割を果たし続けることでしょう。

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