本所松坂町公園

本所松坂町公園：赤穂浪士討ち入りの地、吉良邸跡の静寂

東京都墨田区両国にある本所松坂町公園は、一般的な児童公園とは趣を異にする、歴史的な由緒を持つ公園です。約98平方メートルという小さな敷地に、稲荷明神を祀る神社、古井戸、桜の木などが点在する、静謐な空間が広がっています。遊具などは一切なく、むしろ歴史的記念広場といった趣が濃厚です。

この公園は、元禄赤穂事件で知られる吉良義央の屋敷跡に位置しています。吉良義央は高家肝煎を引退した後、この地に邸宅を構えました。その屋敷は、当初鍜治橋にありましたが、刃傷事件後、幕府の命により召し上げられ、現在の公園付近に移転しました。元禄時代の吉良邸は、推定約8400平方メートルもの広大なものであったと推測されています。

赤穂浪士による討ち入り後、吉良邸は幕府に没収され、その後、中島氏や佐伯氏らの拝領屋敷となりました。その後、住宅が立ち並び、往時の面影はほとんど失われていましたが、昭和9年、地元有志の尽力によって旧邸宅の一部が買い取られ、東京市に寄贈されました。翌昭和10年には公園として開園し、昭和25年には墨田区に移管されました。

公園内には、赤穂事件に関連する様々な遺構や史跡が残されています。討ち入りで亡くなった吉良家家臣の石碑や、吉良上野介義央公の追慕碑などが建立され、平成22年には、吉良義央の座像も設置されました。これらは、公園を訪れる人々に、激動の時代を物語る貴重な史実を伝えています。

公園周辺の地名である「本所松坂町」は、元禄大地震とそれに続く大火によって吉良邸周辺が壊滅状態になった後の復興事業の中で誕生しました。吉良邸跡地の一部は、御鏡師の中島氏や御研師の佐伯氏の拝領町屋となり、残りは割残地として残されました。宝永年間には、これらの土地に「本所松坂町一丁目」「本所松坂町二丁目」の町名が付けられました。吉良邸跡地全体が本所松坂町となった時期は定かではありませんが、宝暦12年には既にそのように呼ばれていたことが確認されています。

公園の周辺環境は、吉良邸以前にも歴史的な痕跡を残しています。かつてこの地には、幕府の御竹蔵（竹材保管施設）がありました。延宝年間には既に存在が確認されており、元禄初期には大規模な改修工事が行われています。元禄11年の大火の後、御竹蔵は廃止され、その跡地には武家屋敷が造られました。吉良義央がここに移り住む以前には、松平信望などがこの地に住んでいました。吉良邸の移転前の地主に関して、近藤貞用とする説が古くからありましたが、これは誤りであると考えられています。

公園内には、高家の格式を示す海鼠塀や黒塗りの屋敷門が復元されています。ただし、これは脇門であり、正門は現在オフィスビルとマンションとなっており、史跡を伝える立札のみが残されています。また、公園内には吉良邸内稲荷社（松坂稲荷神社）があり、吉良義央も合祀されています。公園の向かい側には、吉良邸前稲荷社（飯澄稲荷神社）もあります。これらの神社は、地域住民の信仰を集め、歴史と現代を繋ぐ象徴的な存在となっています。


公園へのアクセスは、JR総武線両国駅東口から徒歩5分、都営大江戸線両国駅から徒歩10分です。開園時間は日中であり、入園料は無料です。毎年12月14日には、泉岳寺などが主催する義士祭が行われ、多くの参拝者や出店が賑わいを見せます。普段は静かな住宅街の中に位置する公園ですが、義士祭の時期は、多くの歴史ファンや観光客で賑わいます。

近年、忠臣蔵の芝居と史実との違いが明らかになるにつれ、悪役とされてきた吉良義央に対する評価が見直されつつあります。そのため、義央を偲んで公園内の稲荷社に参拝する人も少なくありません。本所松坂町公園は、歴史の重みと現代の静けさが共存する、独特の雰囲気を持つ場所です。

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