杉下右京の事件簿

『杉下右京の事件簿』は、テレビドラマ『相棒』シリーズのノベライズで知られる碇卯人によるオリジナル推理小説です。本作は、スコットランドを舞台にした「霧と樽」と、奄美大島を舞台にした「ケンムンの森」の二つの物語で構成されています。

霧と樽

物語は、杉下右京が休暇中にスコットランドのスペイサイド地方を訪れる場面から始まります。彼は、長期熟成のシングルモルトウイスキーの蔵開きに興味を持ち、グレンジール蒸溜所を訪れます。そこには、〈スコッチの神〉と呼ばれる巨人の伝説があり、巨人が現れた年はウイスキーの出来が良いものの、蒸溜所には不幸が訪れると言い伝えられていました。過去には、当主の祖父と父親が相次いで不審な死を遂げており、蔵開きの日には、職人頭が空の樽の中から瀕死の状態で発見され、その後死亡するという事件が発生します。右京は、この事件の真相を解明するため、独自の捜査を開始します。

登場人物として、グレンジール蒸溜所の当主アンディ・マクミランとその家族、使用人や経理担当者、そして亡くなった職人頭ゴードン・ミルズが登場します。また、ライバル関係にあるロッホアラン蒸溜所の当主ピート・バックマスターや、地元警察のロバート・スウィニー警部なども物語に深く関わってきます。右京は、複雑な人間関係と伝説が絡み合う中で、真実を突き止めようと奔走します。

ケンムンの森

もう一つの物語「ケンムンの森」では、右京が組織犯罪対策五課の角田課長からの依頼で、暴力団幹部の身柄護送のため奄美大島を訪れます。しかし、被疑者は逃亡し、右京は捜査に協力することになります。その夜、地元のガイドから、森で「ケンムン」と呼ばれる妖怪を見たという話を聞かされます。翌朝、逃亡した中国人の死体が発見され、事件は複雑さを増していきます。

登場人物には、右京の他に、組織犯罪対策第五課長の角田六郎、逃亡した暴力団幹部安田隆博、中国人乗組員の孫偉と王暁東、そして奄美警察署の警官たちが登場します。さらに、奄美の自然を熟知するインタープリターの西條忠秀や、地元の消防署員たちも物語に関わってきます。右京は、島に伝わる伝説と現実の事件が絡み合う中で、真相を追求していきます。右京は、それぞれの事件で、持ち前の冷静な観察眼と推理力を駆使して、複雑な事件の真相を解き明かしていきます。

この小説は、ドラマ『相棒』の世界観を踏襲しつつ、新たな舞台設定と魅力的なキャラクターを加え、読者を飽きさせない展開が魅力です。それぞれの事件は、右京の卓越した推理力によって解決へと導かれていきます。また、スコットランドと奄美大島という異なる文化を持つ場所を舞台にすることで、物語に深みと広がりを与えています。

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