杉尾邦江

杉尾邦江（すぎお くにえ、1936-2023）は、日本のランドスケープアーキテクト、都市計画コンサルタント、技術士として、環境デザインや都市緑化の分野で多大な功績を残しました。東京都新宿区牛込の出身で、東京都立新宿高等学校を経て、1960年に東京農業大学を卒業。

彼女のキャリアは、大学在学中の1959年に始まります。国家公務員上級職試験（造園職）および旧厚生省の国立公園管理職員採用試験に合格し、第8期生として日本で初めての女性レンジャーとなりました。自然環境の保護・管理という先駆的な分野で活躍した後、2年間の厚生省勤務を経て結婚を機に退職。その後は鹿児島県で3年間教職に就き、教育に携わりました。

1965年に東京に戻り、厚生省所管の特殊法人である国立こどもの国に勤務。そして1972年、厚生省時代の同僚であった夫の杉尾伸太郎氏と共に、ランドスケープコンサルタントのプレック研究所を設立しました。同社の代表取締役会長として、自然環境の保全と利用の両立を目指した数多くのプロジェクトを指揮しました。

杉尾氏の活動は国内に留まらず、国際的にも展開されました。1986年にニュージーランドで開催されたIFPRA世界大会への参加を契機に、1987年にはクライストチャーチへ渡り、リンカン大学の客員研究員として造園学の研究に取り組みました。同時にプレック研究所の現地法人を設立し、コンサルタント業務も行いました。ニュージーランドでの研究成果は、1997年1月に論文としてまとめられ、東京農業大学から博士（造園学）の学位を授与される基盤となりました。

学術面での貢献も高く、母校である東京農業大学から造園大賞を受賞しています。また、実務面では、富山県自然博物園センター「ねいの里」の計画が、昭和57年度日本造園学会賞の調査・計画部門を受賞するなど、その専門性が広く認められました。

杉尾邦江氏は、登録ランドスケープアーキテクト（RLA）、マスター都市プランナーなどの専門資格を保持し、プレック研究所の経営に加え、自然環境共生技術協会自然環境共生技術フォーラム理事、文化庁文化審議会専門委員、歴史的砂防施設の保存活用調査委員会委員、武蔵工業大学講師など、様々な公職や役職を歴任しました。これらの活動を通じて、日本の環境デザイン、都市計画、造園教育の発展に貢献しました。

また、研究や実務の経験に基づいた著作や翻訳も多く手掛けています。主な著書に『景観都市の創出―英国植民地オーストラリア、ニュージーランドの公園緑地帯の成立史』（2007年）、『女性たちの庭―ニュージーランド/日本』（1990年）があり、海外の造園・都市計画に関する知見を日本に紹介しました。夫との共訳書『集団による創造性の開発 : テイキング・パート』もその一つです。杉尾邦江氏は、パイオニアとしての精神と幅広い活動により、日本のランドスケープ界に確かな足跡を残しました。

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