杉山和雄

杉山 和雄

杉山 和雄（すぎやま かずお、1942年（昭和17年） - 2022年（令和4年））は、香川県に生まれた日本の工学者です。特にデザインと工学を結びつける分野で顕著な功績を残し、長年にわたり大学教育を通じて次世代の専門家を育成しました。最終的には芝浦工業大学デザイン工学部デザイン工学科の教授として、その豊富な知識と経験を後進に伝えました。彼の専門領域は広く、橋梁デザイン、インダストリアルデザイン、そしてデザイン・マネジメントといった多岐にわたる分野をカバーしていました。構造物の持つ美しさとその周囲の環境との調和に深い関心を持ち、土木学会景観・デザイン委員会の委員も務めました。

その学術的な道のりは、1966年（昭和41年）に千葉大学工学部工業意匠学科を卒業し、さらに同大学院で研鑽を積んだことに始まります。大学院修了後、杉山氏は活躍の場を海外にも求め、アメリカ合衆国シカゴにあるLatham, Tyler & Jensen Design Inc.などのデザイン事務所で実務経験を積みました。この国際的な環境での経験は、後の彼の研究テーマや教育理念に重要な影響を与えたと考えられます。

1973年（昭和48年）に帰国後、彼は母校である千葉大学に戻り、教育者としてのキャリアを本格的にスタートさせました。着実に実績を積み重ね、1994年（平成6年）には千葉大学工学部工業意匠学科の教授に昇任し、同時に大学院自然科学研究科の教授も兼任しました。これにより、学部生への教育に加え、より専門的な研究指導や大学院教育にも深く関わることとなりました。千葉大学での長年の貢献の後、2011年（平成23年）には芝浦工業大学デザイン工学部デザイン工学科の教授として迎えられ、教育・研究活動の新たな舞台で活躍しました。彼は工学博士の学位を持ち、その学術的な根拠に基づいたデザイン論を展開しました。

杉山氏の業績として特に著名なのは、日本の代表的な橋梁における景観デザインへの貢献です。本州と四国を結ぶ壮大なプロジェクトである瀬戸大橋や大島大橋では、その構造物が瀬戸内の美しい景観の中にどのように溶け込むかという視点から、景観設計に深く関与しました。また、国際的なプロジェクトにおいてもその手腕を発揮し、韓国ソウルにかかる永宗大橋の国際コンペティションでは最優秀賞を獲得しています。さらに、東京湾の交通ネットワークを担うアクアライン橋梁の景観設計にも携わるなど、日本の主要なインフラストラクチャーのデザインに数多く貢献しました。これらの活動を通じて、彼は単に構造的な強度や機能性だけでなく、公共構造物が周囲の環境や人々の目に与える視覚的な影響、すなわち「景観」の重要性を広く社会に提起しました。

自身の専門知識と経験を広く共有するため、杉山氏は精力的に著述活動も行いました。単著としては、橋梁の美学やデザインに焦点を当てた「橋の造形学」（朝倉書店、2001年刊）があります。この著作は、橋を工学的な構造物としてだけでなく、文化や芸術の一部として捉え直す視点を提供しています。また、実務に役立つ知識を共有する目的で、共著・共編著として「EXCELによる調査分析入門」（海文堂出版、1996年刊）にも携わりました。さらに、構造物のデザイン史における古典的な著作であるデビット・P・ビリントン著「塔と橋―構造芸術の誕生」の監訳も（伊藤学氏との共訳で、鹿島出版会より2001年に）手がけ、海外の重要な学術的知見を日本国内に紹介する役割も担いました。これらの著作は、彼の思想や方法論を知る上で貴重な資料となっています。

杉山和雄氏は、工学とデザインという異なる分野を高いレベルで統合し、特に大規模な土木構造物の景観デザインにおいて、その機能性と美的な価値の両立を追求しました。教育者としてもデザイナーとしても、彼の活動は日本の公共空間の質的な向上に大きく貢献し、後進の専門家たちに多大な影響を与えました。2022年に逝去されましたが、彼が残した業績や思想は、今日の景観デザインやインダストリアルデザインの分野において、引き続き重要な指標となっています。

もう一度検索