杉森みど里

杉森みど里：国際経験と教育に捧げた看護学者の軌跡

1934年2月21日、兵庫県に生を受けた杉森みど里は、日本の看護学教育と国際的な看護活動に多大な貢献を果たした著名な看護学者です。そのキャリアは多岐にわたり、臨床現場での経験、海外での活動、大学での教育・研究、そして高等教育機関の管理者としての手腕を発揮しました。

彼女の看護師としての第一歩は、1955年に国立東京第一病院附属高等看護学院を卒業したことから始まります。卒業後、1967年までの長きにわたり、国立東京第一病院で臨床看護師として経験を積みました。この間、彼女は海外での貴重な経験を積む機会に恵まれます。

1959年から1960年にかけて、外務省が組織した医療使節団の一員としてラオスへ派遣されました。この経験は、発展途上国における医療の実情や国際協力の重要性を肌で感じる貴重な機会となったでしょう。さらに、1961年から1963年には、国際看護婦協会（I.C.N.）の交換看護婦プログラムを通じて米国に滞在しました。異なる文化、医療システム、看護実践を学ぶこの経験は、後の彼女の看護観や教育者としての姿勢に大きな影響を与えたと考えられます。

海外での経験を終え、日本に帰国後、杉森氏は看護教育の分野へと活動の軸を移し始めます。1966年から1967年には、厚生省看護教員養成講習会の専任者として、将来の看護教育者を育てるための業務に携わりました。その後、1967年には順天堂高等看護学校本科の教務主任に就任し、教育現場での責任ある立場を経験します。この教育者としてのキャリアを深める一方で、1973年には法政大学法学部法律学科を卒業し、看護以外の分野からも多角的な視点を取り入れようとする探究心を示しました。

大学での教育・研究活動は、1973年に東海大学医療技術短期大学で助教授に就任したことから本格化します。ここでは、高等教育機関における看護教育の実践と理論の確立に取り組みました。1979年には千葉大学看護学部看護教育学講座に移り、助教授として、そして1986年には教授として、日本の看護教育研究の中心地の一つで、多くの看護学生や研究者の指導にあたりました。特に看護教育学の分野において、その理論と実践の融合を図り、質の高い看護師育成のための教育方法論の確立に貢献しました。

教育・研究活動と並行して、学会活動にも積極的に参加しました。1992年から1996年まで、日本看護教育学学会の理事長を務め、同学会の運営や学術的な発展にリーダーシップを発揮しました。

キャリアの後半では、高等教育機関の管理者としても手腕を発揮しました。1999年には群馬県立医療短期大学の学長に就任。そして2005年には、同短期大学を改組して設置された群馬県立県民健康科学大学の初代学長に就任しました。これらの要職において、看護系大学の運営、教育体制の構築、地域医療への貢献など、幅広い課題に取り組みました。学長退任後、群馬県立県民健康科学大学の名誉教授の称号を授与され、長年の功績が称えられました。

また、杉森氏は活発な執筆活動でも知られています。初期の著作には、自身の米国での経験を記した『この目で見たアメリカの看護』（1966年）があり、当時の日本の看護師に海外の状況を伝える貴重な一冊となりました。教育者としての経験をまとめた『看護教育の実践的展開』（1982年）や、看護教育学の体系を示す『看護教育学』（1988年）は、多くの看護学生や教育者にとって重要な教科書・参考書となりました。さらに、舟島なをみ氏との共編著『看護学教育評価論』（2000年）では、看護学教育の質の向上に向けた評価のあり方について考察しています。これらの著作は、日本の看護学、特に看護教育学の発展に不可欠な文献となっています。

杉森みど里氏は、臨床看護師としてキャリアをスタートし、国際的な視野を広げた後、看護教育者、研究者、そして大学管理者として日本の看護学界を牽引しました。その多岐にわたる活動と深い洞察は、今日の日本の看護教育と実践に大きな影響を与え続けています。

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