杉玉

杉玉は「すぎたま」または「すぎだま」と読み、別名「酒林（さかばやし）」とも呼ばれます。これは、主にスギの葉の穂先を集めて、球状に整えられた日本の伝統的な造形物です。酒蔵や酒販店の軒先に吊るされることが一般的で、そこで造られたばかりの新酒が完成したことを周囲に知らせる合図としての役割を担っています。

この杉玉の文化は、奈良県桜井市に鎮座する大神神社に由来すると伝えられています。大神神社は古くから酒造りの神様として信仰を集めており、その境内にそびえる三輪山は神体山とされています。三輪山にはスギが多く自生しており、そのスギは神聖なものとして崇められてきました。大神神社では、毎年十一月十四日に行われる醸造安全祈願祭に合わせて、その年の新酒が無事にできることを願って杉玉を飾る習わしがありました。この習慣が、江戸時代初期には全国各地の酒蔵へと広まっていったと考えられています。大神神社には、酒造関係者の信仰組織である酒栄講（さかえこう）があり、十一月の醸造安全祈願祭の時期には、講員に対して杉玉が授与されています。酒栄講自体は大正時代に組織されたものですが、その頃には既に杉玉の文化が根付いていたことがうかがえます。

本来は神体である三輪山のスギを用いて作られた杉玉を飾ることが正式な習わしでしたが、現在では各地の酒蔵が自ら制作したり、専門の業者に依頼して作製することが多くなっています。

杉玉が軒先に吊るされるのは、おおよそ二月から三月頃が多いのですが、これはちょうどその年の新酒が出回る季節にあたります。そのため、杉玉は「今年も美味しい新酒ができましたよ」という酒蔵からの大切なメッセージとなります。吊るされたばかりの杉玉は、鮮やかな緑色をしていますが、時間が経つにつれて徐々に乾燥し、薄い緑色を経て、やがて枯れて茶色へと変化していきます。この色の変化は、単なる時の経過を示すだけでなく、日本酒の熟成具合をも表しているとされます。鮮やかな緑色の時期（概ね二月から六月頃）は、搾りたての新酒のフレッシュさを、初夏から夏にかけての薄い緑色は、夏酒や熟成が進み始めた段階を、そして秋頃に見られる枯れた茶色は、「ひやおろし」など、夏を越して熟成を深めた酒の飲み頃を示しているのです。

今日では、杉玉は酒蔵や酒販店の風情ある看板のように受け取られがちですが、その本来の意味は、酒造りの守り神である酒の神様へ感謝の気持ちを捧げるための供物であったと考えられています。また、室町時代の禅僧である一休宗純の作と俗に言われる歌「極楽は何処の里と思ひしに杉葉立てたる又六が門（ごくらくはいづこのさととおもひしに すぎのはたてたるまたろくがかど）」は、この杉玉を詠んだものとして知られています。

他にも、スギの葉には酒の腐敗を防ぐ効果があるため、それを願って吊るされたという説も存在します。

杉玉の作り方は比較的シンプルです。まず、できあがりの半分程度の大きさの球状の芯を針金などで作成します。次に、その芯にスギの葉の穂先を、下方から隙間なく順に差し込んで固定していきます。全体にスギの葉を差し終えたら、最後に表面をきれいに刈り揃えて、美しい球形に整えれば完成です。

杉玉は、単なる飾りではなく、日本の酒造りの歴史や文化、そして季節の移ろいを物語る、奥深い象徴と言えるでしょう。

もう一度検索