李容洙

李容洙

李容洙（イ・ヨンス、1928年12月13日生まれ）は、自らが元日本軍慰安婦であると主張し、この問題の国際的な解決を求め活動する韓国の社会運動家です。日本統治下の朝鮮・慶尚北道大邱府で生まれました。1992年に慰安婦被害者であることを公に表明して以降、韓国国内のみならず、国際社会においてもこの問題の解決を訴え続けてきました。

長年にわたり、彼女は韓国挺身隊問題対策協議会（挺対協、現：日本軍性奴隷制問題解決のための正義記憶連帯、正義連）の支援を受け、その活動の中心的な役割を担いました。アメリカ合衆国下院での決議採択に向けた働きかけや、女性国際戦犯法廷での証言など、様々な場で自身の体験を語り、問題提起を行いました。

しかし、晩年になると、長年活動を共にしてきた支援団体である正義連との間に亀裂が生じます。集められた基金の使途や運営方法を巡って正義連を批判し、水曜集会への不参加を表明するなど、対立が表面化しました。2020年5月には、元挺対協代表で当時国会議員であった尹美香氏を名指しで非難するに至ります。これに対し尹氏は、李氏の記憶に歪曲が見られるとし、特に初期の証言では自身が被害者ではなく「友人が被害者だった」と話していたことを示唆するなど、李氏の経歴や証言内容に関する疑義を呈しました。互いの主張は激化し、活動資金の分配や過去の活動経緯についても批判が交わされる状況となりました。

李氏の活動において特に注目されてきたのは、彼女の語る「慰安婦体験」の具体的な内容です。しかし、その証言は時期によって異なる部分があることが指摘されています。例えば、慰安婦になった経緯について、初期の証言では「友人の母親に誘われ、日本人男性から服と靴をもらって嬉しくなり、母親に何も言わずについて行った」という、民間業者による誘引を示唆する内容でした。これが後に「日本の軍服を着た兵士に銃剣を突きつけられ、家に押し入られて強制的に連行された」という、より直接的な軍による強制性を強調する内容に変化しました。

また、連行された時期や当時の年齢、慰安所での具体的な体験（拷問の方法や期間）などについても、証言ごとに詳細が異なるとの指摘があります。例えば、連行時の年齢が14歳、15歳、16歳と揺れたり、慰安所での生活期間が年によって異なったりする点が挙げられています。これらの証言の変遷や矛盾に対し、歴史研究者やジャーナリストなどから信憑性を問う声が上がっています。

初期に元慰安婦らの聞き取り調査を行った安秉直氏（当時ソウル大学教授）は、証言の中には矛盾や歪曲が見られるケースがあったと指摘しつつ、信頼できる証言とそうでないものを見極める必要性を訴えました。また、安氏は後に、強制動員を示す客観的資料は確認されていないとの見解も示しています。秦郁彦氏や西岡力氏といった日本の論者も、李氏の証言の変遷を具体的に挙げ、その内容に疑問を呈しています。

李氏自身は、証言の細かい違いについて、集会での持ち時間が限られていることや、体験の全てを一度に語ることができないため、話す内容が都度変わるだけだと説明し、嘘をついているわけではないと反論しています。

活動の場は多岐にわたり、2000年には女性国際戦犯法廷で証言を行ったほか、日本の国会議員や官房長官との面会、埼玉県知事への抗議活動、様々な集会や講演会での発言を行ってきました。時には日王（天皇）や日本政府首脳に直接謝罪と賠償を要求し、強い言葉で批判することもありました。アメリカでの活動にも熱心で、米下院での証言や安倍晋三首相訪米時の抗議活動、慰安婦碑への訪問などを通じて、国際世論への働きかけを続けました。近年では、ナンシー・ペロシ米下院議長の韓国訪問時に面会を試み、その際に警備員ともめた結果負傷する出来事もありました。

韓国国内では、2012年の総選挙に比例代表候補としての立候補を申請するなど、政治的な動きも見せています。一方で、2015年には韓国女性弁護士会が彼女を含む元慰安婦らをノーベル平和賞候補に推薦する方案を推進するなど、支援の動きもありました。

李容洙氏の活動と証言は、日本軍「慰安婦」問題に対する国際的な関心を高める上で大きな影響力を持った一方、その証言内容の変遷や支援団体との対立といった複雑な側面も併せ持ち、現在も様々な議論の対象となっています。

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