村松喬 (細胞生物学者)

村松喬（むらまつ たかし）は、1941年2月16日生まれの日本の生化学者および細胞生物学者です。鹿児島市で誕生し、名古屋市で育ちました。彼の主要な研究分野は糖タンパク質と成長因子ミッドカインであり、これらの分野で顕著な功績を残しています。

若い頃の研究では、糖タンパク質の糖鎖を特定部位で切断する酵素、エンドグリコシダーゼの存在を初めて明らかにしました。特に発見された酵素Endo-Dは、免疫グロブリンに結合する糖鎖の役割解明に貢献しました。また、Endo-Dを含むエンドグリコシダーゼの研究は、アスパラギンに結合する糖鎖の生合成機構理解にも重要な役割を果たしました。さらに、多能性を持つEC細胞（ES細胞の初期モデル）において、巨大な糖タンパク質結合性糖鎖を発見し、これがEC細胞を特徴づける重要なマーカーとなることを示しました。

研究室を主宰するようになってからは、EC細胞研究を起点としつつ、共同研究者とともに研究領域を拡大しました。その代表的な成果が、成長因子またはサイトカインに分類されるミッドカインの発見とその生理的・病理的な機能解明です。ミッドカインは、炎症細胞の移動促進による免疫応答への関与、組織損傷時の生存・修復促進、そして様々ながんにおける発現増加とがんの発生・進展への寄与など、多岐にわたる機能を持つことが明らかになりました。

また、免疫グロブリン様構造と特異な膜貫通領域を持つ細胞膜糖タンパク質エンビジン（GP70）を発見しました。さらに類似構造を持つタンパク質をベイシジンと命名し、細胞膜糖タンパク質の新たなファミリーを提唱しました。このファミリーは、その後の国際的な研究により多様な機能を持つことが確認され、ベイシジンはマラリアの発症にも深く関わることが判明しました。村松らは、ベイシジンが精子形成、網膜細胞の機能および生存維持に不可欠であることを示しました。

加えて、糖鎖のN-アセチルグルコサミンに硫酸基を転移させる酵素（GlcNAc6ST）を分子クローニングにより世界で初めて同定しました。そして、その酵素が生成する糖鎖が免疫応答、特にリンパ球のホーミングにおいて果たす重要な役割を国際共同研究を通じて解明しました。

略歴としては、東京大学で学び、理学部生物化学科を卒業後、同大学院で博士課程を修了しました。アルバートアインシュタイン医科大学での研究員を経て、神戸大学医学部で講師・助教授を務めました。パスツール研究所での客員研究員経験後、鹿児島大学医学部教授、名古屋大学医学部教授を歴任し、名古屋大学名誉教授となりました。その後は愛知学院大学に移り、教授および心身科学研究所所長を務めました。

学会活動も活発に行い、日本生殖免疫学会や日本糖質学会、日本生化学会などで要職を務め、名誉会員にも推挙されています。

これらの功績に対し、日本生化学会奨励賞（1975年）、中日文化賞（2002年）、瑞宝中綬章（2022年）など、多くの賞や勲章を受章しています。また、専門分野に関する多数の著書や共編著を出版し、研究成果の普及・教育にも貢献しています。

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