杞渓・安康の戦い

杞渓・安康の戦い：朝鮮戦争における激戦

1950年8月、朝鮮戦争中に繰り広げられた杞渓・安康の戦いは、大韓民国軍（以下、韓国軍）と朝鮮人民軍（以下、人民軍）の間で発生した重要な戦闘です。この戦いは、洛東江防御線における激しい攻防戦の一部として、両軍の戦略と兵力が激しく衝突しました。

戦闘の背景

洛東江防御線が形成される中、韓国軍第1軍団は、第8師団が義城一帯を、首都師団が吉安一帯を防衛していました。右翼では第3師団が盈徳で人民軍第5師団と交戦しており、左翼では第2軍団が大邱北部を防御していました。一方、人民軍第2軍団は、隷下の第1師団、第13師団、第15師団を大邱正面に、第8師団を安東-義城-永川沿いに、第12師団を杞渓-安康-慶州沿いに進撃させ、第5師団は引き続き浦項に進撃させ、釜山を占領する計画でした。

韓国軍第1軍団隷下の首都師団は、吉安で防御陣地を編成し、第1連隊が楸木洞に、第18連隊がその東部の高地一帯に、機甲連隊が真宝南側の飛鳳山一帯に配置されました。

両軍の部隊構成

韓国軍
第1軍団：軍団長 金弘壹少将
首都師団：師団長 金錫源准将（8月7日から白仁燁大領）
第1連隊：連隊長 尹春根中領（8月7日から韓信中領）
第18連隊：連隊長 任忠植大領
機甲連隊：連隊長 白南権大領
浦項地区戦闘司令部：司令官 李成佳大領
第25連隊：連隊長 兪海濬中領（8月11日から李奇建大領）
第17連隊：連隊長 金熈濬中領
第1遊撃大隊：大隊長 鄭震少領
第2遊撃大隊：大隊長 金龍周中領
海軍陸戦隊：隊長 姜起千少領
警察隊
75ミリ山砲中隊

人民軍
第2軍団：軍団長 武亭中将
第12師団：師団長 崔仁斗少将
第766連隊：連隊長 呉振宇大佐

戦闘の経過

8月5日、人民軍の攻勢が開始され、首都師団は第1連隊の後方から奇襲を受け、防御線が瓦解。第1連隊は義城一帯に後退し、第18連隊と機甲連隊も義城に撤退しました。首都師団の撤退により、青松-杞渓道沿いが空白地帯となり、人民軍第12師団が南進、9日には杞渓を占領しました。これに対し、韓国陸軍本部は第25連隊を投入、安康北方の445高地を占領しましたが、人民軍の奇襲で壊乱しました。

8月10日、445高地を占領した人民軍部隊は東南に進撃して海軍陸戦隊を圧迫し、主力は杞渓周辺に集結。韓国軍は浦項地区戦闘司令部を編成、隷下部隊を杞渓に投入しました。

8月11日、第17連隊は安康里に到着、海軍陸戦隊と協力して安楽川東岸の236高地を確保しました。しかし、8月13日には445高地が人民軍に奪取され、第25連隊は壊滅、第17連隊がその役割を担うことになりました。防御が薄くなった韓国軍は、人民軍の総攻撃がいつ始まるか分からない状況でした。

8月13日、丁一権参謀総長は第6師団を義城正面に後退させ、第8師団が首都師団の正面を肩代わりすることで、首都師団を安康里正面に転用、杞渓に侵入した人民軍に対処させようとしました。同日、第1軍団で作戦会議が開かれ、首都師団の迅速な転用が議題となりました。白仁燁師団長は、第18連隊を人民軍の背後に突進させる案を提案し、金弘壹軍団長は南北からの挟撃を決心しました。

8月13日からの挟撃作戦では、第18連隊長は出陣に際して将兵から遺髪、爪、遺書を収集し司令部に託しました。首都師団司令部が慶州に移動し、第1連隊と第26連隊も到着しました。白仁燁師団長が作戦を統制し、第1連隊と第26連隊を投入、第17連隊と第25連隊を支援しました。第18連隊と機甲連隊は人民軍の輜重部隊を捕捉しながら南下しました。

8月14日、第1連隊正面に第766連隊が攻撃を仕掛けましたが、空軍の支援により撃退しました。第17連隊は445高地を争奪し、第26連隊は第25連隊の残部を吸収し陣地を確保しました。第18連隊と機甲連隊は、立岩里で補給を待っていた人民軍部隊を挟撃、人民軍は多くの遺体を残して敗走しました。

8月15日、首都師団は総攻撃を開始、第18連隊と機甲連隊は人民軍の退路を遮断しました。8月16日には人民軍の反撃がありましたが、韓国軍も反撃を繰り返し陣地を確保しました。8月17日、人民軍は杞渓南側の高地を奪回しようとしましたが失敗し、杞渓北方に後退。第18連隊は大隊規模の攻撃を撃退し、人民軍は多くの遺体を残して飛鶴山方面に撤退しました。

8月18日、首都師団は南北から挟撃を開始、人民軍は抵抗を試みましたが、第18連隊が杞渓に突入すると重装備を遺棄して飛鶴山に敗走しました。

戦闘の結果

韓国軍は、射殺1,245人、捕虜17人、多数の武器弾薬を鹵獲しました。韓国軍の損害は、戦死92人、負傷171人、失踪500余人でした。8月19日、首都師団は飛鶴山に向けて追撃を開始しましたが、飛鶴山に撤退した人民軍第12師団は、第766連隊を吸収し、新兵を補充して再編成を行い、総兵力5,000人程度となりました。

この戦いは、韓国軍が人民軍の進撃を一時的に食い止め、その後の戦局に影響を与える重要な戦いとなりました。

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