東北数学雑誌

東北数学雑誌

『東北数学雑誌』（とうほくすうがくざっし、英称: Tohoku Mathematical Journal, 略称: TMJ）は、1911年に創刊された、数学分野を専門とする学術雑誌です。この雑誌は、日本国内で初めて発行された欧文による科学学術雑誌であり、その後の日本の数学研究の国際的な発信において重要な役割を果たしてきました。

創刊の経緯と初期

本誌は、東北帝国大学理科大学の開学に先立つ1911年7月に誕生しました。創刊を主導したのは、同大学数学科の初代教授の一人であった林鶴一です。彼は、藤原松三郎、窪田忠彦、小倉金之助、石原純といった、理科大学の初期を支えた同僚たちの協力を得て本誌の編集にあたりました。創刊当初、その出版費用は林鶴一の私財によって賄われていました。しかし、継続的な発行に伴う経済的な負担は相当なものとなり、当時の総長であった澤柳政太郎のはからいにより、大学や学会への寄贈分を東北大学が購入して配布するという支援がなされるようになりました。この支援体制を経て、本誌は第9巻からは正式に東北大学の刊行物として位置づけられることになります。

戦時下の休刊と再刊

第二次世界大戦が勃発し、学術雑誌の発行は困難な状況に直面します。『東北数学雑誌』も例外ではなく、1943年に刊行された第49巻をもって、第1輯としての歴史に一旦幕を下ろしました。しかし、戦後の復興が進む中で、本誌は1949年に再刊されます。この時、装いを新たに「第2輯」として、再び第1巻から発行が開始されました。

特筆すべき論文と国際的な評価

『東北数学雑誌』は、その長い歴史の中で、数学史における重要な論文を数多く掲載してきました。中でも特筆されるのは、アレクサンドル・グロタンディークによる影響力の大きい論文「Sur quelques points d'algèbre homologique」です。この論文は、数学研究者の間でしばしば「東北論文」、あるいは単に「東北」という通称で言及されるほど、その内容が広く認識されています。

現在の状況と展望

1972年に発行された第24巻以降、『東北数学雑誌』は丸善株式会社を通じて全世界に向けて市販されるようになり、その国際的なプレゼンスをさらに高めました。2010年現在の状況としては、東北大学大学院理学研究科数学専攻が本誌の発行主体となっており、年間1巻（年間約600ページ、4号分）が刊行されています。掲載される論文の使用言語は、国際的な研究交流を考慮し、英語、フランス語、またはドイツ語のいずれかに限定されています。

『東北数学雑誌』は、創刊以来一世紀以上にわたり、日本の数学研究の発展を牽引し、世界の数学界における重要な情報発信拠点の一つとして、その権威と伝統を保ち続けています。国内外の研究者にとって、最新の研究成果を発表し、共有するための貴重なプラットフォームであり続けています。

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