東北熊襲発言

東北熊襲発言：1988年の差別発言とその後

1988年2月28日、当時サントリー社長であり大阪商工会議所会頭でもあった佐治敬三氏は、TBS系列のニュース番組に出演。首都機能移転問題に関する議論の中で、東北地方を「熊襲」と表現する差別発言を行いました。この発言は、東北地方の人々を深く傷つけ、大きな社会問題へと発展しました。

発端と背景

当時、活発に議論されていた首都機能移転問題。仙台市を含む南東北3県（宮城県、山形県、福島県）は誘致に熱心に取り組んでいました。近畿地方も誘致活動を展開しており、地域間の対立が激化していた状況でした。

佐治氏の発言は、こうした対立の過熱と、近畿地方からの優位性を示唆する発言として受け止められました。東北地方を古代の反朝廷勢力である「熊襲」になぞらえた表現は、地域住民の自尊心を深く傷つけました。「熊襲」は九州南部の勢力を指す言葉であり、東北地方の反朝廷勢力は「蝦夷」と呼ばれていたという歴史的知識に基づいた差別発言でした。

反発と抗議

佐治氏の発言に対し、東北地方では激しい反発が巻き起こりました。仙台市にはサントリー仙台支店に300本以上の抗議電話が殺到。秋田県では、当時の知事の指示で県共済組合がサントリー製品の仕入れを停止しました。

一方、青森県ではサントリーの原酒工場誘致計画が進んでいたため、対応は慎重でした。他の東北各県でも、抗議運動の規模や熱意には温度差が見られました。この状況を揶揄する報道もされました。

国会でもこの発言は取り上げられ、批判と冷静な意見が入り混じった議論が行われました。一方、九州地方では、熊襲と直接的な関連性の薄さから、抗議運動は限定的でした。青森県と誘致を競っていた大分県では、むしろ歓迎ムードさえ見られました。

東北地方の放送局はこぞってサントリーのCM放送を差し止めました。全国ネットの番組では、東北地方の局が独自で提供クレジットからサントリーを削除したり、CM枠を自社番組の宣伝や公共広告に差し替えたりする対応がとられました。

サントリーの謝罪

当初、佐治氏は発言の撤回や謝罪をせず、副社長が代理で謝罪する意向を示しました。しかし、岩手県知事から直接謝罪を求められるなど、強い反発を受けました。最終的に佐治氏自らが各県へ謝罪し、公式に謝罪文を発表しました。

しかし、サントリーの企業イメージへの悪影響は長く続きました。2004年、東北楽天ゴールデンイーグルスの球団スポンサー争奪戦において、サントリーは積極的な姿勢を見せ、過去のイメージを払拭しようと努力したと評されています。

結論

「東北熊襲」発言は、単なる失言ではなく、地域差別に基づく重大な発言でした。この事件は、企業の社会的責任、地域間の理解、そして表現の自由と責任について、改めて考える契機となりました。この事件から得られた教訓は、現在も企業や個人の言動を規制する上で重要な役割を果たしています。私たちは、この歴史的な出来事を深く理解し、二度とこのような差別的な発言が起こらないように、常に意識を高めていく必要があります。また、地域間の偏見や誤解を解き、相互理解を深める努力を継続していくことが大切です。

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