東大助教授毒殺事件

東大助教授毒殺事件

1950年（昭和25年）1月、東京大学医学部歯科口腔外科の助教授が、北陸線夜行列車内で急死した事件。当初は心臓発作と診断されたが、その後の捜査で部下の歯科医による毒殺事件であることが判明した。

事件の経緯

1950年1月8日、東京大学医学部歯科口腔外科の助教授（当時39歳）は、北陸線武生発上野行きの夜行列車に乗車していた。小松駅到着直前、持参したウイスキーを飲んだ直後に容態が急変。小松駅で下車後、駅長室に運ばれ、医師の手当を受けたが、間もなく死亡した。

当初、小松市の保健所で行われた鑑定では、ウイスキーから毒物は検出されず、助教授の死因は心臓発作と診断された。しかし、同乗していた助手が石川県警に再鑑定を依頼したところ、ウイスキーから青酸カリが検出された。さらに、助教授の遺体を解剖した結果、青酸カリ中毒死であることが判明し、事件は殺人事件として捜査が開始された。

警察の捜査により、助教授が持参したウイスキーは、前年のクリスマスに化学会社から贈られた歳暮であることが判明。しかし、化学会社は発送した事実はないと否定した。捜査の結果、助教授の指導下にあった東大医学部小石川分院の歯科医員が容疑者として浮上し、2月15日に犯行を自供して逮捕された。

犯行動機

犯人の歯科医員は、日本歯科医学専門学校卒業後、戦時中は海軍歯科見習尉官として従軍。復員後、東大附属病院口腔外科専科生となり、同病院に勤務していた。勤務先の看護師と不倫関係にあったが、院長の世話で見合い結婚。しかし、結婚後も看護師との関係を継続していた。

助教授は、医員の女性関係の乱れを厳しく批判し、「もう面倒を見てやらない」と告げた。これに逆恨みした医員は、戦時中から自決用に所持しており、復員時に持ち帰っていた青酸ソーダをウイスキーに混入し、助教授を殺害した。

裁判とその後

一審の裁判で、医員は無期懲役の判決を受けた。しかし、二審では懲役15年に減刑され、医員は控訴せずに判決が確定した。模範囚として8年弱の服役を終えた後、出所。その後、名前を変えて開業医となった。

事件の影響

この事件は、戦後の混乱期における大学内の人間関係の歪みや、個人の倫理観の欠如が引き起こした悲劇として、社会に大きな衝撃を与えた。また、科学捜査の重要性を示す事例としても知られている。

もう一度検索