東方外交

東方外交（Ostpolitik）とは

東方外交（とうほうがいこう、独: Ostpolitik）は、西ドイツ（ドイツ連邦共和国）のヴィリー・ブラント首相が主導した、東ドイツ（ドイツ民主共和国）を含む東欧諸国との関係正常化を目的とした外交政策です。冷戦時代、東西に分断されたドイツにおいて、この政策は大きな転換点となりました。

背景

第二次世界大戦後、ドイツは東西に分断され、西ドイツは資本主義陣営、東ドイツは共産主義陣営に属しました。西ドイツのアデナウアー政権は、ハルシュタイン原則に基づき、東ドイツを国家として認めず、東ドイツと国交を持つ国との関係を断絶するという強硬な姿勢をとっていました。しかし、1960年代に入ると、国際社会はデタント（緊張緩和）へと向かい、西ドイツは時代に取り残される危機感を持っていました。

ヴィリー・ブラントの登場

1969年、社会民主党（SPD）のヴィリー・ブラントが首相に就任すると、東方外交は大きく動き出します。ブラントは、それまでの強硬路線を転換し、東ドイツの存在を事実上認め、東欧諸国との関係改善を目指しました。この背景には、エゴン・バールの「接近による変化」という考え方があり、対話を重ねることで関係を改善するという発想がありました。

東方外交の具体的な内容

東方外交の主な内容は以下の通りです。

東西ドイツ基本条約（1972年）: 西ドイツと東ドイツは、国際法上の国家承認は行わないものの、同等の権利を持つ存在として相互に認め合いました。これにより、両国間の交流や協力が促進されました。
ワルシャワ条約（1970年）: 西ドイツは、ポーランドとの間で、オーデル・ナイセ線を事実上のドイツ・ポーランド国境とすることを認めました。これにより、両国間の長年の領土問題に終止符が打たれました。
* モスクワ条約（1970年）: ソ連との間で、武力不行使条約が締結されました。

東方外交の意義

東方外交は、冷戦下の緊張緩和に大きく貢献しました。特に、東西ドイツの関係改善は、その後のドイツ統一への道を開く上で非常に重要な役割を果たしました。また、ブラント首相がワルシャワのゲットー記念碑の前で跪いた「ワルシャワの跪き」は、歴史的な和解の象徴として、世界中で感動を呼びました。

その後の展開

東方外交によって、西ドイツと東欧諸国との関係は大きく改善されました。しかし、この政策は国内で保守派からの批判も受けました。それでも、ブラント首相は、東方外交を粘り強く推進し、その後の東西ドイツの交流、ひいてはドイツ統一への道を切り開いたのです。

まとめ

東方外交は、冷戦時代において、対立と分断を超えて対話と協調の可能性を示した画期的な外交政策です。この政策は、ヴィリー・ブラント首相の強いリーダーシップと、エゴン・バールをはじめとする多くの人々の尽力によって実現しました。今日においても、国際関係における対話と協調の重要性を教えてくれる歴史的な教訓と言えるでしょう。

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