東赤尾八幡宮

富山県の西南部、現在の南砺市にあたる旧上平村の東赤尾集落（かつては上野集落と呼ばれていました）に、この東赤尾八幡宮は静かに鎮座しています。集落の守護神として、地域の歴史と信仰の中心となってきました。

歴史的背景

東赤尾八幡宮が鎮座する赤尾谷一帯は、中世においていくつかの勢力圏に分かれていたことが知られています。『新屋道場由来記』という史料によれば、この地域は大きく分けて三つの勢力によって治められていました。庄川東岸一帯は平瀬氏が治める新屋を中心に、庄川西岸南部は角淵氏による西赤尾地域、そして庄川西岸北部は高桑氏による漆谷地域です。東赤尾八幡宮が位置する東赤尾集落は、このうち平瀬氏の支配する庄川東岸地域に属していました。

この庄川東岸地域には、やがて赤尾の道宗によって真宗の道場、後の新屋道善寺が築かれました。当初、この道場は新屋、真木、上野（東赤尾）、中田、田ノ下、菅沼といった庄川東岸の多くの集落で共有されるものでした。しかし時代の変遷とともに、南に楮村道場、北に中田道場が独立し、新屋道善寺は新屋、真木、上野の三か村で共有される寺院となりました。この新屋、真木、上野の三か村は地理的にも近く、強い結びつきを持っていました。東赤尾八幡宮は、このような三か村の緊密な関係の中で、同じく三か村共有の神社として発展を遂げたのです。

創建の伝承と記録

神社の創建にまつわる興味深い伝承が残されています。真木村に伝わる話によると、新屋、真木、上野の三か村の間で、八幡宮をどこに建立するかを巡って議論が起こりました。最終的に、新屋村の市次郎という人物の家から矢を射て、その矢が落ちた場所に宮を立てるという方法で決着を図ることになりました。実際に矢が放たれると、それは奇しくも現在の東赤尾八幡宮の場所に落ちたと伝えられています。こうして、現在の地に八幡宮が建立されたのです。

記録としては、現在の拝殿の鴨居の上には「天和三年四月十五日」（1683年）と記された木札が残されており、遅くともこの時期には既に宮が存在していたことがうかがえます。また、正徳2年（1712年）に作成された『五箇山村々神号之覚』という史料でも、東赤尾八幡宮は新屋、真木、上野の三か村の寺（氏神を管理する寺院のこと）とされており、砺波郡北野村の山伏である海乗寺の持分であったことが記されています。明治13年（1880年）の神社寺院台帳には創建年月日が不詳と記されていますが、この頃には既に34戸の氏子があったことが記録されています。現在の社殿は、江戸時代後期の嘉永6年（1853年）に建築されたもので、その後幾度かの改修を経て、現代まで大切に受け継がれています。

祭礼と伝承

東赤尾八幡宮では、年間を通じて祭礼が行われます。特に春季祭礼は5月3日から5日にかけて、秋季祭礼は10月4日に行われ、地域の人々にとって大切な行事となっています。

また、地元には古くから伝わる興味深い伝承があります。かつてこの一帯には多くの狼が生息していましたが、東赤尾八幡宮（上野の宮）と西赤尾八幡社（赤尾の宮）の両方に狼が祀られているため、この二つの宮の間だけは不思議と狼が通らなかったという話です。これは、神社の存在が地域の動物たちとの関係にも影響を与えていたことを示唆する伝承と言えるでしょう。

境内の夫婦杉

東赤尾八幡宮の境内、特に北側の傾斜地には、南砺市の指定文化財となっている見事な「夫婦杉」がそびえています。この二本の杉は、根元が完全に密着しているにもかかわらず、地上に伸びる幹は約50cmの間隔を保って立っているという珍しい樹形をしています。その樹高は約35メートル、樹冠の広がりは直径約17メートルにも及び、目通り（地上1.2メートルの高さの幹周）は両方の木合わせて約5.1メートルにも達する巨木です。昭和44年2月4日に旧上平村の文化財に指定され、市町村合併を経て現在も南砺市の重要な文化財として保護されています。

東赤尾八幡宮は、歴史的な変遷を経て地域の信仰の中心であり続け、創建の伝承や狼の伝承といった古譚、そして境内に立つ威容を誇る夫婦杉など、地域の文化と自然が融合した貴重な存在と言えるでしょう。

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