杵島隆

杵島隆：戦後日本を代表する写真家

杵島隆（1920年-2011年）は、戦後日本の写真界を牽引した写真家です。アメリカ合衆国カリフォルニア州で生まれ、幼少期を日本鳥取県で過ごしました。独特の視点と高い技術で、多様な作品を発表し続けました。本記事では、彼の生涯と作品世界について詳細に探ります。

生い立ちと初期の活動

1920年、アメリカで生まれた杵島は、3歳で日本へ帰国し、鳥取県米子市で育ちました。米子中学校（現・鳥取県立米子東高等学校）卒業後、上京し、日本大学芸術学部映画学科に入学します。在学中は映画制作に携わったのち、海軍飛行予備学生として従軍。終戦後は、旧軍の航空フィルムを用いて写真制作を始めます。この初期の作品には、広島・長崎の被爆の惨状を抽象的に表現したものや、砂丘を背景にしたヌード写真など、社会問題や人間の存在を深く問いかける作品が多く含まれていました。

植田正治との出会い、そしてエタン派

1948年、杵島は写真家植田正治に師事します。植田正治との出会いは、杵島の写真家としてのキャリアに大きな影響を与えました。師事後まもなく、1950年には写真家集団「エタン派」を結成。同時期には、アルス社「カメラ」土門月例年度賞を受賞するなど、早くからその才能を開花させます。また、新聞広告やポスター制作など商業写真の分野でも成功を収め、森永乳業の広告写真では、複数の賞を独占するほどの高い評価を得ました。

キジマスタジオ設立と多様な活動

1956年にはキジマスタジオを設立し、独立した活動を開始。以降は、雑誌表紙のデザイン、郵政省の看板デザイン、企業のアニュアルレポート制作など、幅広い分野で活躍しました。等身大ディスプレイの流行を生んだ郵政省の仕事など、商業写真においても彼の独創的な発想と高い技術は高く評価されました。1971年には三和銀行のアニュアルレポートで国際賞を受賞。1976年には『The Orchid』で日本写真家協会年度賞を受賞するなど、国内外で高い評価を得ました。

社会性と芸術性の融合

杵島の写真作品には、常に社会性と芸術性の両面が感じられます。広島・長崎の被爆をテーマにした初期の作品から、商業写真の仕事においても、人間の存在や社会問題を鋭く捉え、独自の表現方法で提示し続けました。また、砂丘ヌードなど、型にはまらない表現方法にも挑戦し続けました。彼の作品は、見る者に深く考えさせ、感動を与え続ける力を持っています。

晩年と功績

1991年には勲四等瑞宝章を受章。2011年、90歳で逝去しました。彼の死は、日本の写真界に大きな損失をもたらしました。しかし、彼の残した作品群は、これからも多くの人々にインスピレーションを与え続けるでしょう。

参考文献

『「あの人この人」私の交友録』（安田光昭、1980年）
『新修大篠津郷土誌』（編集・発行：大篠津郷土誌作成委員会、2001年）

関連人物

植田正治
土門拳
鈴木恒夫
加納典明

杵島隆の生涯と作品は、戦後日本の社会と写真の変遷を理解する上で、極めて重要な意味を持っています。彼の革新的な視点と技術は、今後の写真表現に大きな影響を与え続けるでしょう。

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