松下亘

松下 亘（まつした わたる）

日本の考古学者、松下 亘は、大正15年（1926年）3月24日に北海道小樽市石山町で生を受け、平成11年（1999年）7月12日にその生涯を閉じました。享年74歳でした。

秋田鉱山専門学校での学びを経て、卒業後は札幌商工局、札幌通商産業局小樽通商事務所といった官公庁でキャリアをスタートさせました。その後、昭和27年（1952年）3月からは北海道開発局局長官房開発調査課に勤務し、この時期から本格的に考古学の世界に関わるようになります。

北海道における考古学研究において、松下氏は精力的な調査活動を展開しました。特に、著名な考古学者である名取武光氏の指導のもと、国の史跡にも指定されている積丹半島のフゴッペ洞窟における発掘調査に深く携わったことは、その業績の中でも特筆されます。この洞窟からは、古代の人々が残した独特な線刻画が発見されており、北海道における先史文化の理解を深める上で極めて重要な遺跡です。フゴッペ洞窟以外にも、彼は道内各地の遺跡調査に尽力しました。具体的には、石狩市に位置する峠下遺跡、北海道遺産にも選定されている知床岬遺跡、オホーツク文化の重要な遺跡である網走湖底遺跡、そして縄文時代の文化を知る上で欠かせない美々貝塚など、多岐にわたる場所での調査活動を行っています。これらの活動を通じて、彼は北海道の豊かな考古学的資源の解明に大きく貢献しました。

また、松下氏は遺跡からの出土品だけでなく、北海道という特定の地域に残る陶磁器や、近代化の遺産ともいえる煉瓦の研究にも独自の視点から取り組みました。こうした研究は、単に過去の遺物を対象とするだけでなく、その地域の歴史や文化、産業の発展といった側面からも重要な知見をもたらすものです。

研究者としての活動に加え、松下氏は北海道の文化振興と文化財保護にも尽力しました。昭和38年（1963年）10月には、北海道の考古学研究者や愛好家が集う北海道考古学会の設立に携わり、研究交流の促進や学術的な発展の基盤作りに貢献しました。さらに、江別市では文化財保護委員を務め、地域の貴重な歴史遺産を守り伝えるための活動にも関与しています。

官公庁を離れた後は、北海道の文化施設の開設と運営にその手腕を発揮しました。昭和45年（1970年）に北海道開発局を辞職した後、直ちに北海道開拓記念館の開設準備事務所特別学芸員として招聘されます。翌年の開館後は、記念館の特別学芸員として、北海道の開拓の歴史や文化に関する資料の収集、研究、展示、普及啓発といった学芸業務の中核を担いました。昭和56年（1981年）に開拓記念館を定年退職した後も、財団法人北海道開拓の村事業課長として、歴史的な建造物を移築・復元した野外博物館の運営に携わりました。また、平成元年（1989年）に開館した北海道立北方民族博物館の開設準備にも非常勤学芸員として関与し、北方地域に暮らす人々の歴史や文化を紹介する施設の実現に貢献しました。さらに晩年には、平成5年（1993年）6月に開館した江別市セラミックアートセンターの開設準備にも携わるなど、多岐にわたる文化施設の設立に関わっています。

長年にわたり、考古学研究、文化財保護、そして文化施設の運営という多角的な視点から北海道の歴史と文化に貢献した松下亘氏は、入院療養中に心不全のため、平成11年（1999年）7月12日の午後7時32分に逝去しました。

その功績は、「北海道立図書館所蔵 松下亘著作資料目録」など、多くの資料に記録されており、北海道の考古学および文化史研究における重要な人物として記憶されています。

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