松下茂典

松下茂典：スポーツノンフィクションに挑む筆致

松下茂典（まつした しげのり）氏は、1954年8月30日に石川県金沢市で生まれた日本のスポーツライターです。星稜高等学校を卒業後、明治大学商学部で学びました。週刊誌記者としての経験を積んだ後、スポーツ分野に特化したノンフィクションライターとして本格的に活動を開始しました。

その著作は、高校野球からプロ野球、オリンピックまで、多岐にわたるスポーツのテーマを深く掘り下げています。特に、母校である星稜高校が出場した伝説的な試合、第61回全国高等学校野球選手権大会における箕島高校との延長18回の激闘を題材とした『神様が創った試合――山下・星稜VS尾藤・箕島延長18回の真実』は広く知られ、第12回小学館ノンフィクション大賞の候補に選ばれるなど高い評価を受けました。また、1959年のプロ野球天覧試合を描いた『あの日、野球の神様は“背番号3”を選んだ――天覧試合　昭和34年6月25日』は、「第1回サムライジャパン野球文学賞」の特別賞にあたるベストナインに選出されています。高校の後輩にあたる松井秀喜氏に関する取材を継続しており、松井氏に関連する著作も多数執筆しています。

著作を巡る論争

松下氏の著作活動においては、その内容や出版経緯を巡って論争や訴訟に発展したケースも存在します。

一つは、2009年に出版された『捕手ほど素敵な商売はない――森祇晶vs野村克也』を巡る、当時の東北楽天ゴールデンイーグルス監督であった野村克也氏との出版差し止め騒動です。この書籍は、松下氏が週刊誌に連載していた記事をまとめたものでしたが、野村氏側は、出版について事前に一切知らされていなかったことに困惑しました。野村氏とその妻・沙知代氏は、発売の数週間前に掲載された新聞広告で初めて書籍の存在を知ったといいます。野村氏は弁護士を通じて出版元の朝日新聞出版に発売中止を求めましたが、出版社は発売予定日の3日前に一方的にファックスで出版を通知し、そのまま刊行を強行しました。野村氏は、森祇晶氏への取材はあったものの、なぜ自分には断りもなかったのか、松下氏とは面識すらないのに自分の名前が書籍名に使われたのは売上目的ではないかと指摘し、強い不快感を示しました。

もう一つは、2020年に宝島社から刊行された書籍に掲載された、円谷幸吉氏に関する記事を巡る名誉毀損裁判です。松下氏が執筆した「円谷幸吉を自殺に追い込んだ人物」と題された記事では、1964年東京オリンピックのマラソンで銅メダルを獲得し、国民的英雄として親しまれながら1968年に自死した円谷氏について、その原因の一端が元上司であった吉池重朝氏にあると示唆する内容が含まれていました。記事中では吉池氏の実名が挙げられ、「円谷幸吉を自殺に追い込んだ人物」「『独裁者』と呼ばれていた」といった表現や、円谷氏の葬儀で吉池氏に「人殺し！」という罵声が浴びせられたことに触れ「罵声は誰もが心に秘めていたことだった」と記述されていました。これに対し、吉池氏の遺族は、円谷氏の自死原因には諸説あり、特定の人物に唯一の原因を帰すことはできないとして、記事が吉池氏の名誉を毀損するものであるとして宝島社などを相手取り損害賠償を求める訴訟を東京地方裁判所に起こしました。

松下茂典氏は、こうした論争を経験しながらも、スポーツの世界における人間ドラマや歴史的瞬間に光を当て続ける筆致で、多くの読者に深い洞察を提供しています。

主な著作

• - 『ドンを越えた男：「巨人軍監督」藤田元司・しんぼうに辛抱のリーダーシップ』（ダイヤモンド社、1990年）
• - 『不敗の監督学：西武ライオンズ森祇晶常勝の秘密』（オーエス出版、1991年）
• - 『神様が創った試合：山下・星稜VS尾藤・箕島延長18回の真実』（ベースボール・マガジン社、2006年）
• - 『あの日、野球の神様は“背番号3”を選んだ--天覧試合　昭和34年6月25日』（ベースボール・マガジン社、2009年）
• - 『捕手ほど素敵な商売はない：森祇晶vs野村克也』（朝日新聞出版、2009年）
• - 『円谷幸吉 命の手紙』（文芸春秋、2019年）

他多数。

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