松岡由幸

松岡 由幸

松岡 由幸（まつおか よしゆき）は、1955年に生まれ、日本のデザイン科学分野を牽引する研究者として知られています。慶應義塾大学の名誉教授であり、早稲田大学の客員教授も務めています。また、デザインの実践と教育の場として「デザイン塾」を主宰しています。

研究と理論

松岡氏の研究は、デザインや設計の基礎となる理論や方法論の構築に焦点を当てています。彼は特に、多空間デザインモデルやＭメソッドといった革新的な手法を提唱しています。さらに、デザインのプロセスを理解するための創発デザインや、分析・発想・評価の三段階で構成されるデザイン思考モデルなど、デザイン科学の基盤をなす理論体系を確立しました。これらの理論は、複雑な課題に対する創造的な解決策を見出すための強力なフレームワークを提供します。

また、デザインや設計の活動に「時間」という概念を積極的に取り入れるタイムアクシスデザインという新しい考え方を提唱しています。これは、製品やサービスが時間とともにどのように変化し、ユーザーの体験に影響を与えるかを考慮する、より動的で人間中心的なアプローチです。

略歴

松岡氏のキャリアは、教育、研究、産業界と多岐にわたります。山口県下関市で育ち、小学校時代には転校を経験しています。山口県立下関西高等学校を卒業後、早稲田大学理工学部機械工学科で学び、1979年に卒業しました。

初期のキャリアでは、GKデザイン研究所や野村総合研究所での嘱託研究員として産業界での経験を積みました。その後、千葉大学大学院工学研究科工業意匠学専攻で修士課程を修了しています。1982年には日産自動車に入社し、1996年まで自動車メーカーで設計・開発に携わりました。

1993年からは千葉大学工学部で非常勤講師を務め、教育者としての道を歩み始めます。1996年には慶應義塾大学理工学部機械工学科に専任講師として着任し、助教授、教授へと昇進しました。慶應義塾大学では、機械工学専攻に加え、大学院理工学研究科総合デザイン工学専攻の設立・発展に深く関わり、この分野の研究と教育を推進しました。

慶應義塾大学以外でも、東京工業大学、筑波大学、イリノイ工科大学大学院デザイン研究所（客員フェロー）、拓殖大学、早稲田大学（客員教授）、愛知県立芸術大学などで教鞭を執り、後進の指導にあたっています。

学術団体での活動も精力的に行っており、一般社団法人日本機械学会フェロー、特定非営利活動法人横断型基幹科学技術研究団体連合理事などを歴任。特に、一般社団法人日本デザイン学会では2016年から2020年まで会長を務め、日本のデザイン科学コミュニティの発展に貢献しました。また、公益社団法人日本設計工学会副会長、公益社団法人日本工学会フェローでもあります。

主な著作

松岡氏の理論と思想は、数多くの著作にまとめられています。単著・編著としては、『製品開発のための統計解析学』、『もうひとつのデザイン』、『デザインサイエンス』（韓国語版、英語版あり）、『図解 形状設計ノウハウハンドブック』、『タイムアクシス・デザインの時代』、『創発デザインの概念』、『Mメソッド』、『モノづくり×モノづかいのデザインサイエンス』などがあります。これらの著作は、製品開発、デザイン理論、創造性、設計思想といった幅広いテーマを扱っています。また、『プラスチックの逆襲』を共編し、日本デザイン学会編纂の『デザイン科学事典』では編集委員長を務めています。

共著としては、『最適デザインの概念』や『ロバストデザイン』などがあり、特定の設計手法や概念について深く掘り下げています。

松岡氏の活動は、デザイン科学の理論的な深化だけでなく、教育、産業界との連携、そして広く社会への普及にも貢献しており、その影響力は多方面に及んでいます。

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