松平綱昌

松平綱昌：越前福井藩を揺るがせた藩主の生涯

松平綱昌は、江戸時代前期に越前国福井藩の第6代藩主を務めた大名です。諱は綱宣とも称し、従四位下・左近衛権少将に叙任されました。波乱に満ちたその生涯は、謎に包まれた奇行と藩政の混乱、そして幕府による厳しい処分によって特徴づけられます。

綱昌は寛文元年（1661年）、越前松岡藩主・松平昌勝の長男として江戸で誕生しました。母は松平定行の三女・菊姫です。幼名は仙菊で、4代将軍・徳川家綱から偏諱を受け、綱昌と名乗るようになりました。

延宝2年（1674年）、先代藩主・松平昌親の養嗣子となります。これは昌親の治世における家督騒動が原因とされ、藩内の反発を鎮めるための措置だったと推測されています。昌親の兄である昌勝の子を養嗣子とすることで、藩内の安定化が図られたのです。

延宝3年（1675年）、元服して従四位下・侍従に叙任され、越前守を名乗りました。翌延宝4年（1676年）、昌親から家督を正式に譲り受けます。延宝8年（1680年）には左近衛権少将に任じられました。

しかし、綱昌の治世は平穏ではありませんでした。延宝9年（1681年）、突如として側近を殺害するなど、不可解な行動が目立つようになったと伝えられています。さらに、飢饉への対応も不適切で、多くの餓死者を出してしまうなど、藩政は混乱を極めました。

貞享2年（1685年）には、江戸城への登城を怠ったため、貞享3年（1686年）、幕府は綱昌の精神状態を問題視し、蟄居を命じました。綱昌は江戸鳥越の屋敷に閉じ込められ、事実上の廃嫡処分となりました。しかし、徳川家康の次男・結城秀康の子孫である御家門の越前松平家を完全に取り潰すわけにはいかず、幕府は前藩主・昌親に知行半減（25万石）という処分を下し、家存続を認めました。この際、附家老である府中本多家も知行半減（4万石から2万石）のペナルティを受けました。

江戸鳥越の屋敷で蟄居生活を送ることになった綱昌は、幕府からの給金を支給されながら生活を続けましたが、元禄12年（1699年）、39歳の若さでこの世を去りました。法名は清浄院殿明譽光巌照哲大居士です。

綱昌の奇怪な行動の理由は、いまだ解明されていません。藩内における長年にわたる対立が影響し、前藩主・昌親の権力が依然として強かったため、綱昌が思うように藩政を進められなかったという説があります。また、昌親側が綱昌とその父・昌勝を失脚させようと画策していたという説も存在します。

綱昌の治世中、福井藩は幕府から越前国絵図の編纂を命じられ、「越前地理指南」「越前地理梗概」「越前地理便覧」の3冊を完成させました。さらに、儒者の野路汝謙に藩の史料整理を命じ、その成果を幕府に提出しています。

綱昌の生涯は、藩主としての力量不足、謎めいた奇行、そして藩内外の複雑な力関係が絡み合った、悲劇的な物語として幕を閉じました。彼の死後も、福井藩は大きな課題を抱えながら、歴史の波に翻弄され続けたのです。

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