板倉徹

板倉 徹（いたくら とおる、1946年1月20日 - 2016年2月25日）は、多岐にわたる活動で知られる日本の脳神経外科医であり、医学者です。京都府に生まれた板倉氏は、和歌山県立医科大学で医学を学び、卒業後、長年にわたり母校の発展に尽力しました。

教育・研究・経営者として
1970年に和歌山県立医科大学医学部を卒業した板倉氏は、医師としての第一歩を踏み出し、同大学附属病院で診療医として臨床経験を重ねました。その後、講師、助教授と順調に昇進し、教育者としてのキャリアも築いていきます。研究面では、1983年に同大学より医学博士の学位を取得しました。また、アメリカ合衆国のカリフォルニア工科大学生物学部門へ留学し、最先端の研究に触れ、国際的な視野を広げた経験も彼の研究者としての基盤を強化しました。帰国後、1994年には和歌山県立医科大学脳神経外科の教授に就任し、後進の指導と研究室の発展に力を注ぎました。

教授として活躍する傍ら、板倉氏は大学運営にも深く関わるようになります。2006年には大学の理事および附属病院長という重責を担い、大学病院の運営改善と地域医療への貢献に努めました。さらに2008年には医学部長に就任し、医学教育および研究体制の充実に尽力。そして、2010年から2014年までの4年間は、和歌山県立医科大学の最高責任者である理事長・学長として、大学全体の改革と発展を主導しました。これらの長年の功績が称えられ、同大学の名誉教授の称号が授与されています。

脳神経外科医としての貢献
専門分野である脳神経外科においては、確かな技術と深い知識を持ち、日本脳神経外科学会の専門医としても認められていました。特に、高次脳機能障害の研究にも熱心に取り組み、この分野の権威として日本高次脳機能障害学会の会長を務めるなど、学術振興に大きく貢献しました。

広範な執筆活動と社会への啓蒙
板倉氏の活動の中でも特筆すべきは、一般向けに医学知識を分かりやすく解説した多数の著書です。専門書に加え、『すこやかな老後をおくろう 痴呆症にならないために』といった高齢者向けの健康に関する啓蒙書や、『ラジオは脳にきく』『同時に2つのことをやりなさい!』など、日常生活における脳機能の活用法やトレーニングに関する実用的な書籍を多く執筆しました。中でも「ラジオは脳にきく」というユニークな視点は、メディアでも取り上げられ、幅広い層の人々の関心を集めました。これらの著作活動を通じて、医学の専門知識を社会に還元し、人々の健康維持や脳機能への関心を高めることに大きく貢献しました。また、多くの共編著もあり、『神経科学の基礎と臨床』シリーズや『定位脳手術』など、専門家向けの重要な学術書にもその名を残しています。

地域への眼差し
医学・教育分野に留まらず、地域社会への貢献にも積極的に関わりました。和歌山を拠点とするサッカークラブ「アルテリーヴォ和歌山」の運営を支援するNPO法人「和歌山からJリーグを作る会」の理事長を務め、スポーツを通じた地域活性化にも情熱を注ぎました。

晩年と後世への影響
板倉氏は、2016年2月25日、胃がんのため、70年の生涯を閉じました。その死は医学界だけでなく、地域社会にも大きな影響を与えました。彼の功績を称え、亡くなった翌年の2017年4月23日には、彼が生前提唱し、多くの人に親しまれた「ラジオは脳にきく」にちなんだ追悼イベント「ラジオは脳にきくスペシャル故板倉徹先生を偲んで」が開催され、多くの関係者やゆかりのある人々が集まり、氏の多大な貢献を偲びました。

板倉徹氏は、脳神経外科医として優れた臨床・研究者であると同時に、教育者、大学経営者として和歌山県立医科大学の発展に尽力し、さらに一般向けの啓蒙活動や地域貢献活動にも積極的に取り組んだ、文字通り多面的な人物でした。その生涯は、医学と社会を結びつけ、より良い未来を目指すための情熱に満ちていたと言えるでしょう。

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