板垣鷹穂

板垣鷹穂：西洋美術史からメディア論へ至る幅広い貢献

板垣鷹穂（1894-1966）は、20世紀日本の文化・芸術シーンにおいて多大な影響を与えた美術評論家にして西洋美術史研究者です。その活動は西洋美術史研究にとどまらず、近代建築、映画、写真といった新たなメディア論にも及ぶ幅広さが特徴です。単なる美術評論の枠を超え、モダニズム研究において文芸、美術、建築、文学と多様な分野を横断的に考察した先駆者として、現代においても高く評価されています。

東京神田に生まれた板垣は、東京帝国大学文科大学哲学科選科生として西洋美術史を学びました。若くして東京美術学校非常勤講師を務め、西洋美術史を講義。その後、文部省在外研究員としてヨーロッパに滞在し、西洋美術を深く研究。帰国後は東京女子大学や法政大学など複数の大学で講師を務め、その知見を広く学生たちに伝えています。

1929年には『新興芸術』という雑誌を創刊。さらに帝国美術学校（現武蔵野美術大学）の創立にも参加し、学科担当教員を務めるなど、教育者としても積極的に活動しました。戦後は早稲田大学文学部教授として長年に渡り教鞭を執り、後進の育成に尽力。明治大学、東京写真大学教授も歴任しました。

彼の活動は教育機関での活動にとどまりません。文部省の委員や鉄道省嘱託、国民映画制作審査委員会委員など、様々な機関で活躍。映画や演劇、音楽などの文化政策にも関与し、時代の最先端を捉えながら活動していました。戦後の東京都都市計画審議会委員なども務めるなど、社会貢献にも熱心に取り組んでいたことがわかります。

板垣の著作は多岐に渡ります。西洋美術史に関する著作は数多く、その専門性の高さがうかがえます。『西洋美術史概説』や『西洋美術史要』は代表的な著書として挙げられます。しかし、彼の著作は西洋美術史にとどまりません。近代建築、映画、写真などの新しいメディアを芸術の視点から論じた著作も多く残しています。『現代の建築』や『映画の世界像』は、これらの分野における彼の先駆的な見解を示すものです。

さらに、板垣はミケランジェロやレオナルド・ダ・ヴィンチといった巨匠に関する評伝も執筆。単なる美術史家としての枠を超え、芸術家の創造性や精神世界にまで踏み込んだ深い考察を示しています。これらの著作は、彼の幅広い知識と深い洞察力を示すものであり、現代においても高い評価を得ています。

板垣鷹穂は、西洋美術史研究者としての卓越した業績、近代建築や新メディアへの鋭い分析、そして教育者としての貢献によって、20世紀日本の文化芸術の発展に多大な貢献をしました。彼の生涯と業績は、単なる美術史を超えた、より広い文化史的文脈の中で理解されるべきでしょう。彼の著作は、現代の私たちにとっても、芸術や文化を考える上で貴重な示唆を与えてくれるでしょう。彼の残した膨大な文献は、今もなお研究者の間で高く評価され、引用されています。

主な著書

『西洋美術史概説』
『西洋美術史要』
『現代の建築』
『映画の世界像』
『ミケランジェロ』
『レオナルド・ダ・ヴィンチ』

参考文献

「対談－建築美を探る八章、村野藤吾、板垣鷹穂」『国際建築』1955年4月号
「板垣鷹穂先生追悼」『武蔵野美術』59 1966年10月号
佐藤武夫「板垣鷹穂さん」『火燈窓』相模書房、1969
藤岡洋保・三村太郎「〈建染評論家〉板垣鷹穂の建築観」『学会論文報告集・計画』394 1988年12月号
* 藤岡洋保『（近代日本、建築家の足跡 板垣鷹穂」『建築文化』1990年1月号

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