板東寛司

板東 寛司（ばんどう かんじ、1950年 - ）は、日本の著名な猫専門写真家であり、自身のスタジオ「風呂猫スタジオ」を主宰している。また、日本招猫倶楽部の世話役も務め、日本の招き猫文化の普及にも熱心に取り組んでいる人物である。

兵庫県神戸市に生を受けた板東氏は、千葉大学工学部写真工学科にて写真技術と理論を深く学んだ。大学卒業後、出版社や映像製作会社といったメディア関連の職場で経験を積んだ。これらの経験を生かし、1991年に独立し、個人事務所である「風呂猫スタジオ」を設立した。

独立して以来、板東氏は猫を専門とする写真家、通称「キャトグラファー」としての道を歩み始めた。彼の写真制作の根底にあるのは、「着飾らない、ふつうの猫たちが日々の生活の中で見せる自然な表情こそが、最も魅力的で心に響く」という明確なコンセプトである。この哲学に基づき、板東氏は日本各地の様々な一般家庭を訪れ、そこに暮らす猫たちのありのままの姿を丁寧に撮影している。彼のレンズを通して捉えられるのは、特別な存在としての猫ではなく、私たち人間の身近なパートナーとしての猫たちの、普段の愛らしい仕草や表情である。この活動は長年にわたり続けられており、2014年の時点で、板東氏がカメラを向けた猫の総数は五千匹を超えるほどの数に達した。彼は、猫たちを単なる被写体として扱うのではなく、人間にとってかけがえのない家族の一員、大切なパートナーとして敬意をもって向き合い、見る者の心を温かく和ませ、笑顔をもたらすような写真を追求し続けている。

写真家としての活動と並行して、板東氏は日本の招き猫文化に対しても並々ならぬ愛情と造詣を持っている。1993年には、長年のパートナーである荒川千尋氏と共に「日本招猫倶楽部」を設立した。この倶楽部を拠点に、日本の伝統的な縁起物である招き猫の歴史や文化的意義を研究し、その魅力を広く発信する活動を行っている。特に、愛知県瀬戸市に位置する招き猫ミュージアムには、板東氏と荒川氏が長い歳月をかけて収集してきた、数千点にも及ぶ貴重な招き猫の個人コレクションが展示されており、彼らの招き猫に対する深い情熱と貢献の大きさを物語っている。

板東氏の作品は、写真集をはじめ、カレンダーやポストカードなど、多岐にわたる形態で発表されており、多くの猫好き、そしてそうでない人々にも広く親しまれている。その温かい視点と独特の感性で捉えられた猫たちの姿は、見る者に安らぎと喜びを与え、多数の著書を出版するに至っている。主な著書は以下の通りである。

『写真集「ぽて猫」』（ＰＡＲＣＯ出版、1997年）
『写真集「あじ猫」』（ＰＡＲＣＯ出版、1997年）
『猫の手』（ネスコ、1998年）
『寝ん猫』（ネスコ、1999年）
『写真集「ちびねこマニア」』（大和書房、2000年）
『写真集「ねこねんね 寝るより楽はニャかりけり」』（人類文化社、2001年）
『猫パンチ!』（ネスコ、2001年）
『なごみねこ写真術−かわいく撮れる15のヒント』（文化出版、2002年）
『写真集「子育て猫」』（大和書房、2002年）
『写真集「ねこつづり 猫文字はあなたを幸せにする!」』（人類文化社、2002年）
『美猫の金曜日』（アシェット婦人画報社、2002年）
『写真集「猫の名前」』（洋泉社、2003年)
『ねこの肉球完全版』（文藝春秋、2003年)
『スーパーモデル猫プリンちゃん ネコのお洋服屋さん』（文藝春秋、2004年)
『逢いたくなっちゃだめ』（あおば出版、2005年)
『となりの猫の晩ごはん 簡単レシピつき写真エッセイ集』（文藝春秋、2005年)
『写真集「こねこ暮らし」』（あおば出版、2007年)
『こねこ・ねんね』（廣済堂出版、2008年）
『ネコカメ』（ソフトバンク、2008年）
『ハコネコ』（文藝春秋、2008年)
* 『ねこ・ねんね』（廣済堂出版、2009年）

板東寛司氏の長年にわたる活動は、単に猫の姿を写し取るだけでなく、猫という存在が私たちにもたらす癒やしや、人間と猫との間に築かれる穏やかな関係性を写真を通して伝え続けている。その作品群は、日本の猫文化、そして写真文化の一つの確かな足跡として、多くの人々の心に温かい光を灯していると言えるだろう。

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