枝川事件

枝川事件（えだがわじけん）

枝川事件は、1949年（昭和24年）4月6日から4月13日にかけて、東京都江東区枝川地区で発生した、警察と在日朝鮮人連盟に関わる住民との間の激しい衝突を伴う事件です。

事件の発端

事件のきっかけは、1948年12月2日に遡ります。当時、月島警察署は管内で発生した、被害総額が260万円に上る広域窃盗事件に関与した疑いのある2名の容疑者を逮捕しました。その後の取り調べの結果、この窃盗事件の主犯格が朝鮮人であり、現在も逃走を続けていることが明らかとなりました。警察は犯人の行方を追うべく、年を越しても捜査を粘り強く継続しました。そして、1949年4月6日、捜査当局はついに主犯が東京都江東区の枝川地区に潜伏しているとの情報を掴みました。枝川は当時、多くの在日朝鮮人が居住する地区として知られており、同日午後に捜査員3名が主犯の身柄を確保するため、現地へ向かいました。

事件の経緯

1949年4月6日午後6時頃、枝川地区に到着した3名の捜査員は、潜伏していた主犯を発見し、その場で逮捕しようとしました。しかし、主犯は自分は別人であると主張し、さらに周囲には多数の住民が捜査員を見守るように集まっていました。この状況から、捜査員は強行な逮捕を避け、任意での同行を求める方針に切り替えました。ところが、屋外に出ようとした際、主犯は突如として捜査員を突き飛ばし、履物もそのままにその場から逃走を始めました。

警察官は、主犯を制止するために威嚇として拳銃を3発発砲し、立ち止まるよう警告しました。しかし主犯がなおも逃走を続けたため、やむなく主犯に向けて発砲しました。その結果、逮捕には至りましたが、主犯はこの際に負傷しました。

この逮捕の一部始終を目撃していた約40人の住民が、直ちに現場の警察官に詰め寄りました。彼らは「仲間を殺した」と叫びながら、捜査員2名に対し、殴る蹴るなどの一方的な暴行を加え、重傷を負わせました。そして、負傷した警察官を在日朝鮮人連盟の施設内へ強引に連れ去りました（この2名の警察官は、後に施設の隙を見て脱出に成功しています）。

一方、現場に残ったもう1名の捜査員は、事態の深刻さを悟り、近隣住民に協力を得て電話を借り、枝川地区を管轄する深川警察署および当初の捜査を担当していた月島警察署へ緊急連絡を行いました。

通報を受けた深川警察署と月島警察署は、直ちに応援部隊を編成し、在日朝鮮人連盟の枝川支部へと急行しました。しかし、現場では住民からの激しい抵抗に遭い、駆けつけた警察官側にも多数の負傷者が発生する事態となりました。事態を重く見たアメリカ軍の憲兵隊が現場に到着すると、それまで強硬だった住民側の態度が急に和らぎました。

その後、警察との間で交渉が行われ、住民側は警察官への暴行に関与した人物の身柄を引き渡すことを約束しました。しかし、約束の期日である4月8日になっても引渡しは行われず、それどころか逆に警察官側の処分を要求するなど、非協力的な姿勢を続けました。

これに対し、警察は事態の早期解決と容疑者の逮捕を目指し、4月9日より枝川地区への出入り口となる橋に検問所を設置し、通行者全員に対する検問を開始しました。これと同時に、警察官への暴行に関与した人物の特定を進めるための詳細な内偵調査を進めました。内偵調査の結果、警察官への暴行に関与した疑いのある人物が特定されたため、4月13日、警察は枝川地区において大規模な一斉捜査を実施し、まず5人の容疑者を逮捕しました。さらに捜査は進み、4月19日までには合計で15人が逮捕されるに至りました。

その後の裁判

一連の事件を受け、検察当局は警察官への暴行などに関与した9名を、公務執行妨害罪や傷害罪で起訴しました。裁判の結果、彼ら全員に対し有罪判決が下され、これが確定しました。また、事件の発端となった広域窃盗事件の主犯も、別途裁判にかけられ、懲役4年の有罪判決を受け、刑が確定しています。

この事件は、戦後の混乱期における社会情勢や、在日朝鮮人を取り巻く当時の状況を背景に発生した出来事の一つとして記録されています。

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参考文献:

『警視庁史（第4）』（警視庁史編さん委員会編、1978年）
『日本の中の三十八度線―民団・朝総連の歴史と現実―』（李瑜煥著、1980年）

関連項目:

コリア・タウン
枝川

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