枢密院官制

枢密院官制（すうみついんかんせい）

枢密院官制は、明治21年4月30日勅令第22号として、1888年（明治21年）に公布・施行された日本の重要な勅令です。これは大日本帝国憲法第56条の規定を受けて制定され、天皇の最高諮問機関としての枢密院の組織、職務、会議の運営方法などを具体的に定めたものです。この官制は、枢密院が天皇を補佐し、国家の枢機に関わる重要事項について審議・答申を行うための法的基盤となりました。

枢密院官制は、その後数次にわたる改正を経てその内容を変更しましたが、基本構造は維持され、日本が第二次世界大戦に敗れ、新たな憲法体制に移行するまでの約60年間にわたり効力を持ち続けました。1947年（昭和22年）5月3日の日本国憲法施行に伴い、同月2日限りで「枢密院官制及事務規程等の廃止に関する勅令（昭和22年勅令第203号）」によって廃止されました。

官制の構成

制定時の枢密院官制は、以下の三つの章で構成されていました。

第一章 組織：枢密院の構成員、定員、任官資格、任命方法などを定めていました。
第二章 職掌：枢密院が諮問を受け、審議すべき事項やその役割について規定していました。
* 第三章 会議及び事務：会議の開催要件、運営方法、議決方式、事務処理体制などを詳細に定めていました。

第一章 組織

枢密院は、議長1名、副議長1名、顧問官、書記官長、書記官によって構成されました。顧問官の定員は制定時には12名以上とされていましたが、その後の改正で変動し、明治23年に25名、明治36年には28名に増加しました。しかし、大正2年には24名に減員されるなど、時代によって見直しが行われています。書記官の定員も数名から始まり、明治23年に5名、明治26年には3名、昭和17年には2名と変更されています。議長、副議長、顧問官は天皇による親任、書記官長は勅任、書記官は奏任といった形で任じられました。また、議長、副議長、顧問官に任じられる者は40歳以上である必要がありました（第4条）。大正時代以降には、議長秘書官や理事官といった専門の職員も置かれるようになりました。

第二章 職掌

枢密院の最も重要な役割は、天皇の諮問に応じて国家の重要事項を審議し、その意見を上奏することでした（第6条）。制定時、その職掌の範囲は、憲法・法律の解釈や改正、予算案、重要な勅令、新しい法律の草案、条約交渉、行政官制など広範にわたる事項を含んでいました。特に憲法や皇室典範といった国家の基本法に関する事項は、枢密院の主要な審議対象でした。その後の改正、特に明治23年や昭和13年の改正では、職掌の対象がより具体的に列挙されるようになり、皇室典範・皇室令に関する事項、憲法条項に関する疑義や草案、憲法附属法や勅令、国際条約の締結、戒厳の宣告、教育・行政官制に関する重要勅令、栄典・恩赦の基礎に関する勅令などが明確に定められました。枢密院はあくまで天皇の諮問機関であり、行政各部に対して直接指示を出す権限は持ちませんでした（第8条）。

第三章 会議及び事務

枢密院の意思決定は、会議で行われました。会議の成立には、特別な場合を除き、顧問官10名以上の出席が必要でした（第9条）。議長が会議を主宰し、議長不在の場合は副議長が代行しました（第10条）。興味深い点として、内閣総理大臣を含む各大臣は、その職務上の地位に基づき枢密院顧問官としての資格を有し、会議に出席して表決権を行使することができました（第11条）。議事は多数決によって決定され、賛否同数の場合には議長が最終的な決定権を持ちました（第12条）。会議に付される事項については、事前に審査報告書が作成され、必要な書類と共に各メンバーに配布される手続きが定められていました（第15条）。議長は枢密院の事務全般を統括し、書記官長はその監督のもとで日常業務を管理しました（第13条、第14条）。

官制の改正と廃止

枢密院官制は、前述のように何度か改正されています。これらは主に組織構成員の人数の変更や、職掌範囲の具体化、内部組織（議長秘書官、理事官の設置など）の見直しを目的としていました。これらの改正は、枢密院の役割や運営が時代と共に変化したことを示しています。最終的に、枢密院官制は1947年（昭和22年）5月2日限りで廃止されました。これは、大日本帝国憲法に代わって日本国憲法が施行され、国のかたちが大きく変わったことによる措置です。日本国憲法下では、枢密院のような機関は設置されず、その役割は内閣や国会などに引き継がれました。

枢密院官制は、大日本帝国憲法下の統治機構において、枢密院がいかに組織され、どのような権限を持ち、いかに運営されていたかを知る上で非常に重要な法規でした。

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