枢機卿の肖像 (ラファエロ)

ラファエロの《枢機卿の肖像画》

《枢機卿の肖像画》（Retrato de cardenal、Portrait of a Cardinal）は、イタリア・ルネサンスを代表する巨匠ラファエロ・サンティが1510-1511年頃に描いた油彩画です。この作品は、ラファエロが1508年にフィレンツェからローマに移り、教皇庁で著名な名士たちと関わりを持った際に制作されました。絵画は現在、マドリードのプラド美術館に所蔵されています。

この肖像画は、スペインのカルロス4世によってローマで購入されたもので、当初はアントニス・モルに帰属されていましたが、技法の独特さからラファエロへの帰属が再考されました。後にこの作品はスペイン王室のコレクションに加わり、1818年にアランフエス王宮で目録に記載された後、プラド美術館へと移動しました。

人物についての論争

作品に描かれている人物については、特定することが非常に難しく、多くの候補者が挙がっています。ラファエロが描いた「ラファエロの間」のフレスコ画には本作と似たような風貌の人物が描かれているものの、確定には至っていません。候補には、教皇ユリウス2世に仕えたベルナルド・ドヴィーツィ（ビッビエーナ枢機卿）、インノチェンツォ・チーボ、スカラムッチア・トリブルツィオなどが名を連ねています。

プラド美術館によると、最も可能性が高いのは「聖体の論議」に描かれているフランチェスコ・アリドーシですが、ベンディネッロ・サウリの可能性も指摘されています。ただし、最近の見解では、この作品はルネサンス期の高位聖職者を象徴的に描いたものとも考えられるようになっています。

作品の特徴

ラファエロはローマに到着し、ユリウス2世の時代にすぐに名声を得ました。その技術には、リアリズムの芸術的表現が反映されており、人々を実際よりもリアルに描く能力が際立っています。さらに、この作品には強い照明と赤い枢機卿の帽子とマント、白い袖と顔とのコントラストが印象的です。

肖像としての描写には、複雑な心理的背景は描かれておらず、ラファエロは外見の繊細さに重きを置き、人物の表情や性格については解釈を観る者に委ねています。このため、作品全体には理想化の傾向も見られながら、細部には直接的な写生が施されているため、ただの写実的な作品とは一線を画しています。

画面構成においては、ラファエロの代表作である『モナ・リザ』の影響が見受けられ、人物は直立した体勢で、左腕が椅子の肘掛けに乗っています。この三角形の構図は、タフな印象を与えつつ、神秘的な表情を母体としています。ところが、背景の暗さがその神秘性をさらに引き立てています。

衣服の質感や光沢の表現についても、ラファエロはヴェネツィア派の技法を取り入れており、衣装の詳細な描写には彼の芸術の幅広さが反映されています。

結語

《枢機卿の肖像画》は、ラファエロの技法と表現力が融合した象徴的な作品であり、ルネサンスにおける肖像画の重要な位置を占めています。鑑賞者に多くの解釈の余地を与えるこの作品は、ラファエロが描く高位聖職者の典型といえるでしょう。

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