枯木灘

枯木灘

中上健次による長編小説『枯木灘』は、1977年に河出書房新社から刊行されました。この作品は、芥川賞受賞作『岬』の続編であり、後に『地の果て 至上の時』へと続く三部作の二作目にあたります。

舞台は紀州の「路地」。主人公の竹原秋幸は、複雑な血族関係の中で、土方として生計を立てています。彼の周囲には、母フサの再婚相手である繁蔵、異父兄の郁男、異父姉の美恵、そして実父である浜村龍造など、様々な人物が絡み合います。

あらすじ

物語は、秋幸の複雑な家庭環境から始まります。彼は、母フサの再婚相手である繁蔵の家で暮らし、繁蔵の息子の文昭の組で土方として働いています。秋幸には、自殺した異父兄の郁男がおり、郁男は生前、異父姉である美恵と親密な関係でした。美恵が駆け落ちしたことがきっかけで、郁男は孤独に酒に溺れ、自ら命を絶ちます。

秋幸の実父、浜村龍造は、土地を巻き上げてのし上がった人物で、地元の人々から憎まれています。秋幸自身も龍造を憎んでいますが、その娘である異母妹、さと子と近親相姦の関係にあります。これは、龍造への憎しみを自暴自棄にぶつけた結果でした。

秋幸には、地元の有力者の娘、紀子という恋人がいますが、身分違いのため、結婚には困難が伴います。また、義父繁蔵の姉であるユキは、近所を歩き回って噂を広めており、秋幸の土方仲間である徹が、白痴の少女を強姦しているという噂を立てています。

秋幸は、重苦しい血縁関係の中で、鬱屈を抱えながら日々を過ごしています。土方仕事で日に炙られながら働くことで、辛うじて心の平穏を保っています。

物語は、秋幸の異母弟である秀雄と、異父姉美恵の娘の恋人である五郎との間で起こった事件をきっかけに、さらに複雑化していきます。秋幸は、龍造との面会で、さと子との近親相姦の秘密を告白しますが、龍造はそれを一笑に付します。この告白を通して、秋幸は、異父姉である美恵への複雑な感情に気づきます。

ある日、秋幸は、徹が白痴の少女を強姦している現場を目撃し、噂が真実であることを知りますが、友人である徹を守るために、そのことを秘密にします。

盆の夜、秋幸は、突発的な衝動から、憎んでいた龍造ではなく、秀雄を石で打ち殺してしまいます。秋幸は、秀雄を殺害した罪で自首し、逮捕されます。

龍造は、息子を殺されたにもかかわらず、秋幸を恨むことはなく、むしろ刑務所から戻った秋幸を自分の事業に利用しようと目論みます。一方、フサは紀子の訪問を受け、紀子が秋幸の子を身ごもったことを知ります。そして、徹は秋幸の不在を良いことに、自分の秘密が誰にも知られないと安堵しますが、その時、白痴の少女の嘲笑が聞こえてきます。

主要登場人物

竹原秋幸: 本編の主人公。フサと浜村龍造の子。土方として働く。
フサ: 秋幸の母。過去に複数回結婚している。
繁蔵: フサの再婚相手で、秋幸の義父。土方請負師。
郁男: 秋幸の異父兄。自殺した。
美恵: 秋幸の異父姉。
美智子: 美恵の娘。妊娠中。
ユキ: 繁蔵の姉。
徹: 秋幸の幼なじみ。
浜村龍造: 秋幸の実父。成功した実業家。
秀雄: 龍造とヨシエの子。秋幸の異母弟。
* さと子: 龍造と娼婦の子。秋幸の異母妹。

作品の特徴

『枯木灘』は、複雑な血縁関係と愛憎、人間の業を描いた重厚な作品です。中上の独特な文体と、紀州の風土が相まって、独特の世界観を作り出しています。また、近親相姦や殺人といった衝撃的な出来事を描きながらも、人間の生への執着や孤独、そして愛の形を問いかけています。

本作は、中上健次の代表作として、文学史においても重要な位置を占めています。読者には、登場人物たちの内面や葛藤、そして彼らが生きる「路地」の重苦しい雰囲気を、ぜひ感じ取っていただきたいと思います。

逸話

中上は、本作執筆にあたり、ドストエフスキーの小説を読み返して自分を鼓舞したり、ブランデンブルク協奏曲を聴きながら執筆したと語られています。また、連載中は、締め切り直前まで酒を飲み、その後、一気に書き上げたというエピソードも残っています。

出版

『枯木灘』は、河出文庫から文庫版が刊行されています。

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