柳井滋

柳井滋（1930-2008）は、日本の国文学を代表する学者の一人であり、特に『源氏物語』研究において卓越した功績を残しました。東京大学文学部卒業後、同大学院博士課程を修了、その後、成蹊大学文学部日本文学科教授として長年にわたり教鞭を執り、多くの学生を育成しました。1999年に同大学を定年退職し名誉教授となりましたが、その後も2006年まで非常勤講師として大学に携わっていました。

柳井氏の研究対象は幅広く、中古文学全般にわたりますが、その中心は『源氏物語』にありました。彼は『源氏物語』のテキスト研究、注釈、そしてその思想的背景に関する研究を精力的に行い、現代の『源氏物語』研究に多大な影響を与えました。綿密なテキスト分析に基づいた解釈は高く評価され、数々の論文、著作を発表しました。

彼の代表的な著書としては、まず『伊勢物語　傍線解釈』（明治書院、1966年）が挙げられます。この作品においては、鋭い洞察力と緻密な分析力によって、『伊勢物語』の奥深い世界を鮮やかに解き明かしています。さらに、彼の最大の業績の一つと言えるのが『源氏物語』（全5巻、新日本古典文学大系19-23、岩波書店、1993-1997）です。この大著においては、柳井氏は『源氏物語』全巻を丁寧に解説、現代語訳、そして詳細な注釈を付与することで、『源氏物語』へのアクセスを飛躍的に容易なものとしました。この功績は、多くの人々に『源氏物語』を理解し、楽しむ機会を与えたという意味で非常に大きいと言えるでしょう。

また、『源氏物語索引』（新日本古典文学大系別巻、岩波書店、1999年）も彼の重要な業績です。この索引は、膨大な『源氏物語』のテキストを網羅的に検索できるよう設計されており、研究者だけでなく、一般読者にとっても非常に便利なツールとなっています。これにより、『源氏物語』研究は大きく進展し、新たな知見が生まれる基盤が構築されました。

晩年には、これまでの研究成果をまとめた『柳井滋の源氏学　平安文学の思想』（桜井宏徳編、武蔵野書院、2019年）が刊行されました。この著作は、柳井氏の『源氏物語』研究の集大成であり、彼の学問的生涯を理解する上で非常に重要な文献となっています。

柳井滋は、卓越した研究者であると同時に、優れた教育者でもありました。彼は、学生たちに自身の深い知識と熱意を惜しみなく伝え、多くの後進を育成しました。彼の指導を受けた学生たちは、現在も日本の国文学界を担う中心的な存在となっています。彼の没後も、彼の研究は多くの研究者たちに影響を与え続け、日本の国文学研究の発展に貢献し続けているのです。彼の学問的遺産は、これからも多くの研究者や愛好家によって継承され、発展していくことでしょう。

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