柳澤健 (ノンフィクション作家)

柳澤 健（やなぎさわ たけし）は、1960年（昭和35年）3月25日に東京都に生まれた日本の編集者、そしてノンフィクションライターです。

慶應義塾大学法学部を卒業後、一時空調機メーカーに勤務しましたが、1984年に株式会社文藝春秋に入社しました。しかし、本人の弁によれば、学生時代はあまり本を読まず、入社時ですら文藝春秋という出版社のことや、その創設者である作家の菊池寛についてもほとんど知らなかったといいます。

入社して最初の配属先は、当時の編集長であった白石勝氏が率いる『週刊文春』編集部でした。特集班の一員としてキャリアをスタートさせ、やがて作家の田中康夫氏による人気連載『トーキョー大沈入』の担当編集者となります。

続いて配属された写真週刊誌『Emma』では、デスクの花田紀凱氏のもとで複数の皇室関連の記事を執筆しました。しかし、驚くべきことに、実際に取材を行ったのはたった一度だけだったといいます。記事は渡された写真をもとに書かれ、時には内容を適当に作り上げていたとのことです。さらに、記事の最後に「（文・小林久美子・高校2年）」といった架空の女子高校生の名前をクレジットとして使用していました。これは、ですます調で書かれた文章に「浩宮さま」といった表現を用いることで、よりリアリティのある女子高生の文章に見せようという意図からでした。この偽名クレジットには、実際に読者から写真入りのファンレターが届くという珍事も発生しました。中には50代の男性からの手紙で「住所を教えて下さい。」と書かれたものもあったといいます。この『Emma』編集部には、柳澤氏と同期で入社し、後に評論家として知られるようになる勝谷誠彦氏も配属されていました。柳澤氏は、当時の勝谷氏を「ひとことで言えば、ただものではなかった」と振り返っています。

『Emma』での経験の後、再び『週刊文春』に戻り、花田紀凱氏が編集長を務めていた時期には、清水ちなみ氏の人気コラム「顔面相似形」などを担当しました。また、スポーツ総合誌『Number』の編集部にも籍を置き、設楽敦生氏の編集長時代に編集者として活動しています。

2003年夏、柳澤氏は長年勤めた文藝春秋を退社し、ノンフィクションライターとしての道を歩み始めました。フリーランス転身後、2007年にはプロレス界に焦点を当てた初の単著『1976年のアントニオ猪木』を上梓し、作家デビューを果たします。以降、プロレスや格闘技をはじめとするスポーツ分野を中心に、過去の象徴的な出来事や人物に光を当てるノンフィクション作品を精力的に発表しています。特に「19〇〇年」という特定の年をタイトルに冠した作品が多いのが特徴です。

雑誌『ファイト＆ライフ』に連載された「日本レスリングの物語」は高い評価を受け、2009年度のミズノスポーツライター賞優秀賞を受賞しました。その他、『1993年の女子プロレス』、『1985年のクラッシュ・ギャルズ』、『1964年のジャイアント馬場』、『1984年のUWF』、『棚橋弘至と中邑真輔』、『2000年の桜庭和志』など、数多くのスポーツノンフィクション作品を世に送り出しています。また、スポーツ以外の分野では、伝説的な深夜ラジオ番組を扱った『1974年のサマークリスマス 林美雄とパックインミュージックの時代』や、自身の古巣である『週刊文春』の内幕に迫った『2016年の週刊文春』といった作品も発表しています。

編集者時代の豊富な経験、特に『週刊文春』や『Emma』での多岐にわたる、時にはユニークな業務経験が、後のノンフィクション作家としての鋭い視点や取材力、そして物語を紡ぐ力に繋がっていると言えるでしょう。現在も、歴史的な瞬間に立ち会った人々の証言や、膨大な資料を丹念に読み解き、熱気あふれる時代の空気や、人々の葛藤、栄光、挫折を鮮やかに描き出す作品を発表し続けています。

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