柴垣和三雄

柴垣 和三雄（しばがき わさお）

柴垣和三雄は、日本の高名な数学者であり、長年にわたり九州大学の名誉教授を務めた人物です。1906年5月30日に石川県金沢市で生を受け、2001年5月1日に惜しまれつつ世を去りました。その学究生活は、研究、教育、そして翻訳活動という多岐にわたる側面を持ち、日本の数学界にsignificantな足跡を残しました。

学問への道は、1929年に東京大学理学部物理学科を卒業したことに始まります。その後、数学の研究に深く傾倒し、特に多変数関数の分野で顕著な業績を挙げました。1941年には、その研究成果が認められ、東京大学から理学博士の学位を授与されています。博士論文の題目は「n変数の一つの実函数の此等変数のm(<n)個の方程式によって定義さる超曲面上におけるクルチカルポイントについて」というもので、これは多変数関数の臨界点、特に複数の制約条件下での関数の挙動を調べる解析学における重要なテーマを扱ったものです。

教育者としては、九州大学および東京理科大学理学部において、長年にわたり教鞭を取りました。大学教授として、彼は単に知識を伝えるだけでなく、数学的な思考法や問題解決のアプローチを学生たちに熱心に教え込み、多くの優れた数学者や研究者を育て上げました。その講義は、数学の基礎理論から先端的な分野までを網羅し、多くの学生にとって深い学びの機会となりました。

柴垣氏の功績は、自身の研究発表にとどまりません。彼はまた、数学に関する啓蒙的な著作や、海外の重要な数学書の翻訳にも精力的に取り組みました。自身の著作としては、1972年にみすず書房から出版された『線形代数に直結した幾何学序説』や、1973年に森北出版から刊行された『関数解析と数値解析入門』などがあり、これらは大学レベルの数学を学ぶ学生にとって、現在でも価値のある教科書として参照されています。

さらに、柴垣氏の翻訳活動は、日本の数学研究の発展に計り知れない貢献をしました。特に、問題解決の思考法で著名なジョージ・ポリアの著作を日本に紹介した功績は大きいと言えます。彼はポリアの代表作である『帰納と類比』と『発見的推論』（いずれも1959年、丸善）を翻訳しました。また、ポリアの『数学の問題の発見的解き方』全2巻（1964年、1967年、みすず書房）は共訳として手掛け、多くの日本の読者に数学的な発見のプロセスや創造的な思考法を伝えました。加えて、現代測度論の基礎を築いたアンリ・ルベーグの重要な著作である『量の測度』（1976年、みすず書房）の翻訳も行っており、これは測度論や実解析を学ぶ上で非常に重要な文献となっています。

柴垣和三雄氏は、研究者としての鋭い洞察力、教育者としての情熱、そして海外の優れた数学的知見を国内に紹介する翻訳者としての尽力により、日本の数学界に多大な貢献をしました。その生涯は、基礎科学の振興と後進の育成に捧げられ、その功績は長く記憶されるべきものです。

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