栃窪峠

栃窪峠

栃窪峠（とちくぼとうげ）は、新潟県十日町市と南魚沼市の境界に位置する峠です。この峠は古くから利用され、「六箇峠（ろっかとうげ）」という別名でも知られています。現在の交通路としては、新潟県道82号十日町塩沢線が峠付近を通過しており、その近辺で新潟県道560号田沢小栗山線、通称「魚沼スカイライン」とも接続しています。

歴史的な道のり

魚沼丘陵を越えて、旧中魚沼郡（現在の十日町市周辺、通称「妻有」）と旧南魚沼郡（現在の南魚沼市周辺、通称「上田」）を結ぶ峠道は、古くから数多く存在しました。その中でも、栃窪峠は特に中世から近世にかけて、両地域を結ぶ交通路として最も盛んに利用されました。

戦国時代、越後を統治した上杉謙信の時代には、本拠地である春日山（現在の新潟県上越市）から南魚沼を経て、さらに三国峠を越えて関東地方へ至るルートの一つとして、栃窪峠を通る道が重視されました。この道は、当時の関東への最短ルートとして整備され、軍事・政治・経済の要衝としての役割を担いました。そのため、この峠を通過する道は、広域的な視点からは「関東街道」とも呼ばれましたが、地元の視点や目的地に応じて「妻有街道」「高田街道」「柏崎街道」など、複数の名称で称されることがありました。

江戸時代に入っても、栃窪峠は人々の往来や物資の移動が活発な主要街道であり続けました。南魚沼側（旧上田地方）には口留番所が設置され、この番所が峠を通行する人や荷物の監視を行うとともに、峠道の維持管理や安全確保にもあたっていました。このように、江戸幕府や諸藩によってその重要性が認識され、管理体制が整えられていたことからも、当時の峠の賑わいと役割をうかがい知ることができます。

近代以降の変化

栃窪峠の重要性は、近代に入ると徐々に変化していきます。明治時代になり、下越地方と関東地方を結ぶ新たな主要交通網として信越本線が開通すると、長距離移動における峠道の相対的な重要性は低下しました。鉄道が人や物資の大量輸送の中心となり、峠越えの徒歩や馬による交通は主要な役割から外れていったのです。

さらに20世紀後半になると、自動車交通の発達とそれに伴う新たな道路網の整備が加速します。特に、近隣を通る八箇峠道路（現在の国道253号八箇峠バイパスを含む広域的な改良区間）などの整備が優先的に進められ、南魚沼と中魚沼を結ぶ主要な交通路の軸は、より高規格な新しい道へと移っていきました。これにより、栃窪峠はかつてのような主要ルートとしての地位を失い、現在は主に地域内の交通を担う県道の一部として利用されています。

かつて多くの人々が行き交い、歴史の舞台ともなった栃窪峠は、時代の変遷とともにその役割を変えながら、現在も静かに地域を見守っています。

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