根川緑道

東京都立川市柴崎町に広がる根川緑道は、「立川公園根川緑道」とも呼ばれる緑道公園です。この緑道は、国土交通省が推進する「アクアパークモデル事業」の一環として位置づけられ、水辺の環境を保全しながら、人々が安全に水に親しめる場を創出することを目的として整備されました。

根川の歴史と変遷

立川市内には多摩川をはじめ、残堀川、根川、矢川という四つの河川に加え、玉川上水が流れています。かつての根川は、立川台地と多摩川沿いの低地の段丘から染み出る湧水を集め、多摩川に注ぐ約3キロメートルの河川でした。この地域にわずかに残された貴重な自然景観と生態系を保つ「自然の回廊」とも呼ばれていました。

江戸時代から地域住民の憩いの場として親しまれ、特に昭和10年には、氾濫を防ぐための河川改修の際に土手にサクラが植えられたことで、花見の名所としても知られるようになりました。

しかし、その後も大雨による氾濫が繰り返されたため、治水対策として残堀川への流路変更が実施されました。そして昭和47年、下流の一部区間を除いて根川は埋め立てられることとなりました。この埋め立てられた区間が、水路を備えた都市計画公園として整備されたのが根川緑道です。

緑道としての再生と水源の確保

緑道整備当初、水路には井戸水が供給されていましたが、昭和57年以降は下水処理場からの砂濾過水が利用されるようになりました。しかし、これにより水質の悪化が進んだため、根本的な対策が必要となりました。そこで、平成5年に完成した下水処理施設の高度処理水を根川緑道の水源として活用する計画が立てられました。

この高度処理水の活用を基盤とした緑道再生プロジェクトの最大の目的は、豊富に利用できる処理水を、微生物などが生息できる「生きた水」に戻し、かつての根川やその水辺に存在した生物の生息環境と自然の風景を再現することでした。具体的な計画には、水路の底を玉石と粘土で構成すること、瀬と深みを組み合わせること、水草を植栽することによる水の浄化機能の回復が含まれました。

また、雨水を地面に浸透・浄化させるための浸透舗装や、草地の土手、そしてかつての花見名所を復活させるための既存樹木（特にソメイヨシノ）の間引きと修景も行われました。周辺の水辺から水辺植物や水生生物を導入し、樹木の配置を工夫して水面に陰影をつけるなど、失われた水辺の生態系と風景を丁寧につくり直す取り組みがなされました。

生態系に配慮した空間設計

この事業は立川市が主体となり、山本紀久氏が全体監修を、中田研童氏、高林則之氏が設計・監理を、田中雅広氏が生物調査を担当しました。施工は山本玉翠園、清香園、関東緑花により、1992年10月から1994年3月にかけて行われました。設計開始から整備完了まで約7年を要しました。

再生された緑道は、かつて涸れかけていた旧根川の小水路沿いに、隣接する下水処理場から毎分1.7トン供給される高度処理水を導水して作られました。平均幅は約30メートル、延長は約1.4キロメートルに及び、市民に豊かな川辺の自然と憩いの場を提供しています。

生態系の多様性を実現することが最優先され、陸域から水域、水底への横断方向、そして上流から下流への縦断方向の両方に変化を持たせました。これにより、様々な水生動物が生息できる環境が生み出され、生物が自由に移動できるような縦横の「生物コリドー（廊下）」として一体的に機能するよう設計されています。

具体的な整備内容としては、以下のような点が挙げられます。

既存のコンクリートで固められた水路を取り払い、粘土や玉石、蛇籠（じゃかご）、編柵（へんさく）といった自然素材を用いて、本来の水際線に近い形状を再現しました。
常緑樹が密生し、日当たりの悪かった樹林を間引くことで、水面に光が差し込むように改善しました。
サクラの名所としての景観を取り戻すため、植栽されていたソメイヨシノの約半数を計画的に間引き、個々の木の生育を促し、「水辺のサクラの名所」としての魅力を復活させました。
生物を間近で観察できるエリアと、安全に水遊びが楽しめるエリアを区別して整備し、人々が水辺に親しみやすくなるように配慮しました。
* ソメイヨシノを含む既存の高木や、中低木を整理することで、明るく開放的な、春の小川のような情景を取り戻しています。

根川緑道は、過去の治水事業により失われかけた自然を、最新の技術と生態学的な知見を融合させて再生した、都市における貴重な水辺空間となっています。

辺空間であり、市民の憩いの場としてだけでなく、生き物の多様な営みを観察できる場としても重要な役割を果たしています。

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