根府川駅列車転落事故

根府川駅列車転落事故：関東大震災が引き起こした悲劇

1923年（大正12年）9月1日、関東大震災の発生に伴い、神奈川県足柄下郡片浦村（現在の小田原市）の根府川駅付近で、列車が土石流に巻き込まれて海中に転落するという、痛ましい事故が発生しました。この事故は、地震による災害と、その後の土石流という複合的な要因が重なったことで、甚大な被害をもたらしました。

事故の概要

事故が発生したのは、東京発真鶴行きの普通第109列車でした。この列車は、960形蒸気機関車に8両の客車を連結した編成で、根府川駅に進入しようとしていました。しかし、その時、関東大震災による地滑りが引き起こした土石流が、列車と駅舎を襲いました。列車は、駅舎やホームなどの構造物もろとも海側に脱線転覆し、最後尾の客車2両を残して、全てが海中に没してしまいました。

この事故により、乗員乗客と駅の職員合わせて112名が死亡（または行方不明）となり、13名が負傷しました。この事故は、単なる列車事故としてだけでなく、関東大震災による災害の一部としても記録されています。

事故発生の経緯

当時、東海道本線は、現在の御殿場線が本線で、根府川駅を通る路線は熱海線と呼ばれていました。第109列車は、9月1日午前9時5分に東京駅を出発し、新橋、品川、横浜などの駅に停車した後、10時15分に大船駅に到着しました。その後、国府津、小田原の各駅にも定刻通りに到着し、根府川駅へと向かっていました。

根府川駅では、上り列車との交換を行う予定でしたが、上り列車の姿が見えませんでした。第109列車が駅ホームに差し掛かった際、激しい揺れに見舞われました。機関士は非常ブレーキをかけ、車掌も客車のブレーキをかけましたが、列車は土石流に巻き込まれて海側に転落しました。駅舎やホーム、給水塔などもろとも海中に落下し、一瞬にして海中に没しました。

機関士と前部車掌、後部車掌は、流木につかまり海岸にたどり着き助かりましたが、見習い車掌は即死、機関助手は行方不明となりました。根府川駅の職員や乗客も土石流に巻き込まれ、多くの犠牲者が出ました。

根府川・米神地区の惨状

根府川駅周辺では、白糸川でも大規模な土石流が発生し、根府川地区の民家を押し流し、200人以上が犠牲になりました。また、根府川地区の子供たちが海岸で遊泳中に津波に巻き込まれ、多くの犠牲者が出ました。土石流は、白糸川にかかっていた鉄橋も押し流し、周辺の地形を一変させてしまいました。さらに、米神地区でも土石流が発生し、多くの死者・行方不明者が出ました。

その他の列車事故

根府川駅で第109列車と交換予定だった上り第116列車も、地震の影響を受けて事故に遭遇しました。トンネル内で土砂崩れに巻き込まれ、乗員2名が死亡しました。しかし、第116列車は、遅れて運行していたことが幸いし、第109列車と同様の壊滅的な被害は免れました。

関東大震災では、熱海線以外にも多くの路線で列車事故が発生し、多数の車両が破損、焼失しました。多くの死傷者も記録され、鉄道網は大きな被害を受けました。

交通の回復

震災により鉄道網が寸断されたため、物流は海路や迂回ルートに頼らざるを得なくなりました。東海道本線は、全国からの応援を得て復旧が進められましたが、特に被害の大きかった区間では復旧に時間を要しました。熱海線は、海岸沿いの絶壁が崩落したため、復旧は大幅に遅れました。全線開通には震災発生から1年半以上の歳月を要しました。

その後

1932年、鉄道省は海中に没した機関車の所有権を放棄しました。しかし、1934年に機関車が引き揚げられ、ナンバープレートは鉄道博物館に展示されることになりました。また、事故の犠牲者を弔う慰霊碑が、民間人と鉄道関係者によって建立されています。

この事故は、自然災害の恐ろしさと、その被害からの復興の困難さを私たちに教えてくれます。また、鉄道事故の歴史の中でも、特筆すべき悲劇として、後世に語り継がれています。

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