根本的な帰属の誤り

根本的な帰属の誤り（Fundamental attribution error）

根本的な帰属の誤りとは、社会心理学における認知バイアスの一つで、他者の行動を説明する際に、その人の個性や性格といった内面的な要因を重視しすぎる一方で、行動が生じた外部の状況要因や環境の影響を軽視してしまう傾向を指します。この現象は、基本的な帰属錯誤、基本的な帰属の錯誤、基本的な帰属のエラーなどとも呼ばれ、特に英語圏では「対応バイアス（Correspondence bias）」という名称も広く使われています。

社会心理学における位置づけ

この誤りは、人間が他者の行動をどのように理解し、原因を推測するかという「帰属（attribution）」の研究において中心的なテーマとされています。他者の振る舞いを見た際に、根拠が薄弱であっても、その人の本質や固有の特性によって行動が決まっていると考えがちで、その人が置かれた社会的、状況的な影響を考慮しない傾向が見られます。興味深いことに、人は自身の行動については、状況の影響をより考慮する傾向があります。この自己と他者に対する帰属の違いは、「行為者-観察者バイアス（Actor-Observer bias）」として知られています。

用語の由来と関連する議論

「根本的な帰属の誤り」という用語は、心理学者のリー・ロス（Lee Ross）によって名付けられました。これは、エドワード・ジョーンズ（Edward E. Jones）とビクター・ハリス（Victor Harris）による古典的な実験が行われた数年後のことです。ロスは、この概念が社会心理学の根幹をなすものだと位置づけました。しかし、命名者の一人であるジョーンズは、ロスの用語について「やや挑発的で、誤解を招く可能性もある」と述べつつも、「私自身が最初に思いつきたかった言葉だ」と冗談交じりに語ったとされています。後に、ダニエル・ギルバート（Daniel Gilbert）ら他の心理学者たちは、同じ現象を指す言葉として「対応バイアス」という用語を使い始め、現在ではこちらも一般的になっています。

ジョーンズとハリスの古典実験

根本的な帰属の誤りを示す代表的な実験として、ジョーンズとハリス（1967年）による研究が挙げられます。この実験では、参加者はフィデル・カストロに関する賛成意見、あるいは反対意見を述べた文章を読みました。そして、参加者は作者がカストロに対してどのような態度を持っているかを推測するよう求められました。作者が自分の真の考えに基づいて文章を書いたと信じられた場合、参加者が作者の態度を文章内容に基づいて評価したのは当然と言えます。しかし、実験参加者に「作者はコイントスなどによって書く立場（賛成か反対か）を決められた」と伝えられた場合でも、多くの参加者は、作者が文章に書かれた意見を本当に支持していると推測する傾向が強く見られました。これは、状況的な制約（指示された立場）を軽視し、作者の内面的な信念（気質）に原因を帰属させる、まさに根本的な帰属の誤りを示唆する結果でした。

原因に関する考察

なぜこのような誤りが生じるのかについては、まだ定説はありませんが、一つの仮説として「視点」の影響が挙げられます。他者の行動を観察する際、私たちの注意は行動を起こしている本人に集中しやすく、その人を囲む状況は背景として見過ごされがちです。心理学では、このように注意が向けられやすく、目立ちやすい要因を「顕現性（salience）」と呼びます。ある要因の顕現性が高いほど、行動の原因をその要因に帰属させやすくなると考えられています。他方、私たち自身が行動を起こす際には、状況や環境をより意識しやすいため、自分自身の行動を状況に帰属させやすくなるというわけです。

誤りの影響を低減するために

この認知バイアスの影響を完全に排除することは難しいかもしれませんが、その影響を和らげるためのいくつかの方法が提案されています。

一致性情報に注目する: 同じような状況に置かれた他の多くの人も同じような行動をとるかを考えてみます。もしそうであれば、その行動は個人の特性よりも状況によって引き起こされている可能性が高いと言えます。
自己の可能性を問い直す: もし自分が同じ状況に置かれたら、どのような行動をとるかを想像してみます。これにより、状況が行動に与える影響を理解しやすくなります。
* 見えにくい要因を探る: 表面的には分かりにくい、あるいは注意が向きにくい状況的な要因や背景にある可能性を探求する努力をします。特に、行動を起こした人が置かれていた制約や圧力に目を向けます。

根本的な帰属の誤りは、対人関係や社会的な判断において、他者への不当な評価や固定観念につながる可能性があります。このバイアスが存在することを理解し、意識的に状況要因を考慮する習慣を身につけることが、より正確な他者理解につながると考えられます。

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