桐一兵衛

桐一兵衛（きりいちべい）または斬一倍（きりいちばい）

桐一兵衛または斬一倍は、新潟県の南魚沼郡や南蒲原郡に伝わる不思議な妖怪です。この妖怪には興味深い伝説があり、特にある侍と小さな子供の奇妙な遭遇が語り継がれています。

物語の始まり

ある日、一人の侍が「おのぼり峠」という場所を通りかかりました。その途中で、彼の前に一人の幼い子供が現れました。その子供は、にこやかな顔をしながら「早く歩いてお父様に抱かれ」と、侍を急かすように言いました。初めは可愛らしい言葉に侍も微笑を浮かべましたが、どこか不審な気配を感じて足を速めました。

しかし、その子供はまるで侍の動きに合わせてさらに速く追いかけてきました。その姿を見て、侍は次第に不安を強め、もはやこの子供が普通の存在でないことを悟ります。彼の直感は鋭く、すぐさま刀を抜き出し、子供を真っ二つに斬り捨てました。しかし、事態はこれで終わることはありませんでした。

増える妖怪

驚くべきことに、斬り捨てた子供は二人に分かれ、続いて侍が再び斬ると、それぞれがさらに二人ずつ増え、次々に現れました。瞬く間に、数え切れないほどの子供たちが侍の周囲を取り囲むように現れ、彼は恐怖だけが増していくことを感じました。侍は逃げようとしましたが、化け物たちは混沌とした声をあげながら彼を追いかけてきました。

逃げることも困難になった侍は、ついに捕まってしまうのではないかという危機感を強めます。彼の心中には恐怖と焦りが交錯し、逃げ場が見当たらないことに追い詰められていました。

ニワトリの声と化け物の消失

その時、突如として合図とも言えるニワトリの声が聞こえてきました。すると、信じられないことに、追いかけてきた化け物たちは一斉に「朝になったから帰ろう」と言い捨て、消えていったのです。侍は、その場の静けさに驚きつつ、振り返る暇もなく逃げ帰りました。

後に彼が冷静になり考えてみると、ニワトリの声を発したのは、実は自身の刀に彫られていたニワトリの目貫だったことに気づきました。刀の中に仕込まれた一種の魔力が、彼の危機を救ったのでしょう。

結論

この物語は、桐一兵衛、または斬一倍という妖怪がどのようにして生まれたのかを示す重要な逸話です。突然の恐怖と不思議な体験が、地域の伝説として今なお語り継がれています。妖怪の正体は未だ謎に包まれていますが、この出来事が持つ神秘的な要素は、今でも多くの人々に親しまれています。

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