梶川伸一

梶川伸一氏は、ロシア・ソ連史を専門とする日本を代表する歴史学者の一人です。1949年生まれ。京都大学大学院文学研究科博士課程を満期退学後、名城大学で講師、助教授を務め、現在は金沢大学文学部教授として後進の指導にあたっています。

氏の専門は、言うまでもなくロシア革命期の農村社会です。2000年には、博士論文「飢餓の革命：ロシア十月革命と農民」で、京都大学より文学博士号を取得。同論文を元に執筆された『飢餓の革命――ロシア十月革命と農民』（名古屋大学出版会、1997年）は、氏の代表作であり、ロシア革命研究における重要な一冊として高く評価されています。この著作では、十月革命を単なる都市部での出来事として捉えるのではなく、農村社会における飢餓や社会不安といった具体的な状況を詳細に分析することで、革命の成立過程に対する新たな解釈を提示しています。

続く『ボリシェヴィキ権力とロシア農村――戦時共産主義下の農村』（ミネルヴァ書房、1998年）では、革命後の戦時共産主義政策がロシア農村にもたらした影響を、多角的な視点から考察しています。食糧徴発や農民への弾圧といった具体的な政策と、それらに対する農民の抵抗、そして、それらが革命の進展にどのように影響を与えたかについて、豊富な一次資料に基づき詳細に分析しています。

さらに、『幻想の革命――十月革命からネップへ』（京都大学学術出版会、2004年）では、十月革命後のロシア社会における変遷、特に、戦時共産主義から新経済政策（ネップ）への移行過程における農村社会の変化に焦点を当てています。革命の理想と現実の乖離、政策転換の背景にある複雑な社会情勢など、多面的な視点から時代を考察することで、読者にロシア革命史の新たな理解を提供しています。

単著の他に、数多くの翻訳書も発表しています。例えば、ブライアン・キャッチポールの『アトラス現代史（3）ソ連』（創元社、1989年）や、セルゲイ・ペトローヴィッチ・メリグーノフの『ソヴェト=ロシアにおける赤色テロル(1918～23)――レーニン時代の弾圧システム』（社会評論社、2010年）など、重要な史料や研究成果を日本語で紹介することで、日本のロシア革命研究の発展に大きく貢献しています。

梶川伸一氏の研究は、単に歴史的事実を羅列するだけでなく、農民の視点を取り入れ、社会経済的な構造を深く分析することで、ロシア革命史を多角的に理解することを可能にしています。その研究は、ロシア革命研究のみならず、近現代史研究全体においても、重要な貢献をしていると言えるでしょう。また、氏の著作は、専門家だけでなく一般読者にとっても分かりやすく、ロシア革命に興味を持つ多くの人々に広く読まれています。今後とも、氏の研究がロシア革命史の更なる理解に繋がることを期待しています。

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