棚の隅

棚の隅

『棚の隅』は、2006年に公開された日本の長編映画です。直木賞作家である連城三紀彦氏の同名短篇小説を原作とし、俳優の大杉漣氏が主演を務めました。この作品は、かつて夫婦だった中年の男女が偶然の再会を果たし、互いの人生を立て直しながら新たなスタートを切るまでを、何気ない日常の描写を通して静かに描いています。

製作背景

本作の製作は、特筆すべき背景を持っています。当時、主に自主映画の分野で活動していたプロデューサーの小池和洋氏が、原作の映画化権を取得するために、原作者である連城三紀彦氏へ直接交渉を行ったことから企画がスタートしました。監督を務めたのは、自主映画界では高い評価を得ていたものの、商業的な一般映画の監督経験がなかった門井肇氏です。脚本は、主にテレビドラマで活躍していた浅野有生子氏が担当しました。この主要メンバーを中心に、約5年という長い準備期間を経て映画は完成に至ります。

製作費に関しては、直接的な制作費は約500万円、宣伝費や興行費を含めても総額1000万円程度という、当時の日本映画としては異例の低予算で製作されたことが大きな話題となりました。この低予算製作が却って注目を集める結果となり、最終的には全国で10館以上の劇場で上映されることとなりました。さらに、本作は国内外で評価され、2007年にはカナダで開催されたモントリオール世界映画祭に正式参加作品として招待されています。

ストーリー

物語の中心となるのは、小さなおもちゃ店を経営する主人公、宮田康雄（大杉漣）です。ある日、彼の店に一人の女性が立ち寄ります。彼女は、店の奥の棚に置かれた売れ残りの古いおもちゃを一つ買って帰ります。この女性こそ、今から8年前に康雄と、当時幼かった息子である毅（今井悠貴）を置いて家を出て行った元妻、岡崎擁子（内田量子）でした。擁子は保険外交員として、偶然にも康雄の住む地域を担当することになったと告げ、挨拶のために立ち寄ったと言います。しかし、その後も擁子はたびたび店を訪れるようになり、その度に棚の隅の売れ残りのおもちゃを購入していきます。

現在の康雄は、秀子（渡辺真起子）と再婚しており、息子も現在の妻に懐き、表面的には平穏な家庭を築いているかのように見えます。しかし、現実におもちゃ店の経営は困難な状況にあり、康雄自身もどこか自信を失い、自分の不甲斐なさを感じています。一方、擁子もまた、かつて置いてきてしまった息子への強い想いを断ち切ることができずにいました。繰り返される擁子の訪問と、息子を見つめる彼女の複雑な心情に触れるにつれて、康雄の心にも次第に動揺が広がっていきます。そして、過去と現在の感情が交錯する中で、康雄は擁子に対して、ある重要な「提案」をするのです。その提案が、二人の、そして彼らを取り巻く人々の未来を動かしていくことになります。

キャスト

本作の主な出演者は以下の通りです。

• - 宮田康雄：大杉漣（おもちゃ店店長）
• - 岡崎擁子：内田量子（保険外交員、康雄の前妻）
• - 宮田秀子：渡辺真起子（康雄の現在の妻）
• - 進藤亮介：榊英雄（擁子の恋人）
• - 宮田毅：今井悠貴（康雄と擁子の息子）
• - 玩具問屋店主：徳井優
• - 三浦なるみ：今宿麻美
• - 佐藤信次：江道信

スタッフ

映画製作に関わった主なスタッフは以下の通りです。

• - 原作：連城三紀彦（「棚の隅」コスミック出版刊）
• - 監督：門井肇
• - 脚本：浅野有生子
• - 企画統括：小池和洋
• - 音楽：延近輝之
• - 主題歌：橘いずみ
• - 撮影：鈴木一博
• - 照明：上妻敏厚
• - 美術：井上心平
• - 録音：高田伸也
• - 助監督：原桂之介
• - 編集：金子尚樹
• - 制作・配給：リトルバード

『棚の隅』は、派手な演出に頼ることなく、登場人物たちの等身大の感情と、日本のどこにでもあるような日常の風景を通して、家族や人間関係の普遍的なテーマ、そして人生の再生を描き出した作品です。限られた予算の中で、製作陣とキャストが一丸となって作り上げたこの映画は、低予算ながら国内外で高い評価を得たインディーズ映画の好例として、現在も語り継がれています。

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