森上史朗

森上 史朗（もりうえ しろう）

日本の幼児教育学を牽引した研究者（1931年7月8日生まれ、2019年8月4日没）。岡山県真庭郡久世町（現在の真庭市）の出身です。大学教員、文部省職員として幅広く活躍し、その生涯を通じて保育実践の向上と研究の発展に貢献しました。

経歴

1955年に東京教育大学教育学部心理学科を卒業し、研究者の道を歩み始めました。卒業後は北海道教育研究所に勤務し、教育に関する調査研究に従事しました。その後、教育機関での活動に移り、東京成徳短期大学で助教授を務めました。1970年には大妻女子大学家政学部の助教授に就任し、大学での教育・研究活動を本格化させました。

1975年には教育行政にも深く関わることとなり、文部省（現在の文部科学省）初等中等教育局幼稚園課の教科調査官として、国の定める幼稚園教育の指導内容や基準に関する専門的な立場で重要な役割を果たしました。この経験は、後の研究活動や著作にも大きな影響を与えたと考えられます。

1980年からは日本女子大学家政学部に籍を移し、助教授、そして教授として長きにわたり教鞭を執りました。同時に、同大学の附属児童研究所の主事も兼任し、幼児教育における実践的な研究や教育プログラムの開発、施設の運営に指導的な立場で携わりました。1997年には青山学院大学の教授に就任し、後進の育成に力を注ぎました。2001年に大学を定年退職した後も、研究への情熱は衰えることなく、子どもと保育総合研究所の代表として、現場と研究を結びつける活動を継続しました。

業績

森上史朗氏の業績は、単著、極めて多数の共編著、そして翻訳と多岐にわたります。特に、日本の幼児教育界における理論と実践の両面に深く根差した研究を展開しました。

単著としては、『児童中心主義の保育』や、日本の保育学の礎を築いた倉橋惣三に関する著作『子どもに生きた人・倉橋惣三』などがあります。これらの著作では、保育の理念や歴史的背景、そして子ども理解の重要性について深く考察しています。

氏の活動の顕著な特徴の一つは、他の研究者や実践家との共同による著作が非常に多いことです。発達の遅れや障害を持つ子どもの家庭指導や治療教育に関する柚木馥氏との共編著シリーズは、当時の特別支援教育や療育の実践において貴重な手引きとなりました。また、『保育実践講座』、『保育原理』、『保育内容総論』といった保育者養成課程で用いられる教科書や、様々なテーマ別のハンドブック、専門用語辞典など、その共編著は100冊を超える膨大な数に上ります。これらの著作は、保育者の専門性向上、多様化する保育課題への対応、教育内容の深い理解促進など、多角的な視点から保育の実践と研究を力強く支えるものとなりました。発達障害、言語・聴覚障害、情緒障害など特定のニーズを持つ子どもへの対応、遊びや環境設定、評価、行事、教育課程の編成など、保育に関わるあらゆる領域を網羅しており、その研究対象の広範さを示しています。

さらに、海外の優れた幼児教育理論や育児に関する書籍の翻訳も手掛け、国内外の研究動向を結びつけ、日本の保育界に新たな視点をもたらす役割も果たしました。例えば、ブラゼルトン博士の育児書や、海外の幼児教育基礎理論の紹介などが挙げられます。

森上史朗氏は、教育者、研究者、そして文部省の職員として、日本の幼児教育の発展に生涯を捧げました。その豊富な知識と経験は、数多くの著作として結実し、現在の保育者や研究者にとっても貴重な財産となっています。特に、理論を現場に繋げ、多様な課題を持つ子どもたちへの理解と支援を深めるための実践的な視点は、現代の保育においても依然として重要な意義を持ち続けています。

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