植木哲

植木 哲（うえき さとし）

植木 哲氏は、1944年6月9日生まれの日本の民法学者です。長年にわたり大学で教鞭を執り、千葉大学名誉教授の称号を授与されています。専門は民法、特に営造物責任や消費者信用法、そして医療をめぐる法分野に深く関わってきました。

長崎県に生まれた植木氏は、香川大学経済学部で学んだ後、神戸大学大学院法学研究科私法専攻に進み、1970年に修士課程を修了しました。学問への探求を続け、1989年には「営造物責任の研究」により神戸大学から法学博士の学位を取得しています。

研究者・教育者としてのキャリアは、1972年に滋賀大学の助手として始まりました。その後、滋賀大学で助教授、教授を務め、さらに京都府立医科大学教授を経て、1994年には関西大学教授に就任しました。2003年からは千葉大学法経学部の教授として、教育と研究に貢献。2010年に千葉大学を定年退職し、同大学より名誉教授の称号が贈られました。退職後も朝日大学法学部教授として教壇に立ち続けましたが、2015年に同大学を退職。その後、弁護士登録を行い、主に医療紛争の分野で実務家としての活動を開始しました。

植木氏の研究は、社会の多様な側面における法の適用に焦点を当てています。特に、公の施設の瑕疵による損害賠償責任を扱う営造物責任に関する研究は、博士論文のテーマとなるなど、キャリアの初期から重要な位置を占めていました。また、消費者信用をめぐる法問題や、現代社会において重要性を増す医療と法のかかわり、すなわち医事法分野における貢献は特筆されます。医療紛争解決に向けた理論的考察や提言は、多くの研究者や実務家に影響を与えました。さらに、専門分野にとどまらず、森鴎外の代表作『舞姫』のエリスのモデルについて、16歳のドイツ人少女であるという新説を提唱した『新説鴎外の恋人エリス』を著すなど、文学と法といった異分野への深い洞察力も示しています。

多岐にわたる研究成果は、数多くの著書として結実しています。主な著書には、初期の研究成果をまとめた『災害と法 営造物責任の研究』（1982年）、『消費者信用法の研究』（1987年）、医事法分野の基礎となる『医療の法律学』（1998年）、そして医療紛争に関する専門書である『人の一生と医療紛争』（2010年）、『医療紛争解決への処方箋』（2016年）などがあります。共編著書も多く、医療紛争の事例分析、医事法の現代的課題、世界の医事法制度、そして医療訴訟から代替的紛争解決（ADR）への移行など、幅広いテーマを扱っています。また、植木氏の還暦を記念して、医事法の方法と課題に焦点を当てた記念論集『医事法の方法と課題 植木哲先生還暦記念』が刊行されており、その学術的貢献の大きさがうかがえます。

研究者、教育者としてのみならず、弁護士として実務にも携わるなど、植木氏は法学の理論と実践の双方に貢献し続けています。特に医療紛争という複雑な問題に対する深い理解と、その解決に向けた多角的な視点は、多くの人々にとって貴重な指針となっています。

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