楊萬里

楊萬里（よう ばんり、1919年 - 2000年）は、中国広東省に生まれ、後に日本へ帰化して中国料理研究家の先駆けとなった人物です。中国名は楊博文、帰化後の本名は弘農博文。日本の食文化に多大な影響を与えました。

生涯と経歴

幼少期の8歳で来日し、早稲田大学に学びますが、日中戦争の影響で上海へ一時帰国します。戦後、香港を経て1950年に再び日本へ渡り、家業の中華料理店「海珠亭」を引き継ぎました。その後、「陽明山」という別の中華料理店も経営しましたが、やがて料理教育・研究の道へと進みます。

彼は単なる料理人にとどまらず、中国料理の調理法や理論、実習だけでなく、健康との関わりを示す「食療」や、料理にまつわる歴史や故事に至るまで深く掘り下げて研究しました。これにより、日本ではまだ珍しかった「中国料理研究家」として確固たる地位を築きました。

多岐にわたる活動

楊萬里の活動は多岐にわたりました。長年にわたり、八重洲クッキングスクール、松屋クッキングスクール、ニチレイクッキングスクール、朝日カルチャーセンター、玉川高島屋の料理サロン、実践女子大学、聖徳学園など、数多くの教育機関や料理教室で講師を務め、多くの人々に中国料理の技術と知識を伝えました。

メディアでも積極的に活動し、NHKの長寿番組「きょうの料理」には1971年から10年以上にわたり出演しました。その他にも、民放の料理番組やトーク番組、ラジオ、雑誌など、様々な媒体を通じて中国料理の魅力、調理法、理論、そして「医食同源」や「薬膳」といった考え方を広く紹介しました。読売新聞の日刊紙では「きょうの一皿」を長く担当し、日常的な食卓への提案も行いました。

また、食品業界への貢献も大きく、多くの食品企業で食品加工や製品開発に関するコンサルタントを務めました。特に、家庭用の調味料として広く知られる「Cook Do」や、手軽に調理できる「こてっちゃん」の開発には、彼の知見が活かされたと言われています。さらに、かつて横浜市磯子駅前にあった松坂屋の中国料理店「龍泉」で総支配人を務めていた際には、「中国料理おせち」を企画・販売し、その普及と定着に重要な役割を果たしました。

思想と評価

彼の料理観、食に対する思想は、「医食同源」「美食同源」という言葉に集約されています。「食」という文字が「人の下に良し」と書くように、食事が人間の健康の基礎であるという考え方を強く提唱しました。これは、単においしい料理を提供するだけでなく、食べる人の健康を願う中国料理の根源的な哲学に基づいています。

その功績は高く評価され、1990年には(財)日本食品生活文化財団より、中国料理部門における「金賞」を受賞しました。

その他の活動

意外な活動としては、1977年のNHK大河ドラマ『花神』に出演したことが挙げられます。このドラマで清朝の料理人役を演じ、その演技を記録したビデオテープは、後に彼の息子によってNHKに提供されました。

主な著作

彼はその知識と経験を多くの著作として残しました。代表的なものに以下の作品があります。

『香港の味』（主婦の友社、1963年）
『わたしにも作れる中国料理』（マコー社、1969年）
『家庭向き中国料理』（マコー社、1971年）
『秘密の中国料理』（経済界、1979年）
『中国料理の通になる』（主婦の友社、1983年）
『美人は食卓からうまれる』（主婦と生活社、1985年）
* 『楊萬里のおいしい毎日』（里文出版、2000年）

楊萬里は、料理人、研究家、教育者、メディアパーソナリティ、コンサルタントといった様々な顔を持ち、その活動を通じて、日本における中国料理の理解を深め、その普及に貢献した、まさにパイオニアと呼ぶべき存在です。彼の提唱した「医食同源」などの考え方は、今日の健康志向にも通じるものであり、その業績は今なお日本の食文化に息づいています。

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