極付幡随長兵衛

極付幡随長兵衛の概要と魅力

『極付幡随長兵衛』（きわめつき ばんずい ちょうべえ）は、日本の伝統芸能である歌舞伎の魅力的な演目であり、河竹黙阿弥によって作られた世話物です。この作品は通称「湯殿の長兵衛」としても知られ、1881年10月に東京春木座で初演されました。後に1891年には歌舞伎座で大幅な改訂が行われ、序幕に「公平法問諍」が追加されました。現在の構成は三幕五場で、江戸時代を背景にした人間ドラマが展開されます。

あらすじ

序幕

江戸の村山座木戸前では新しい狂言「公平法問諍」が大変な人気となり、多くの観客が集まっています。そこに現れたのは、旗本奴である白柄組の侍たちで、通行人の親子をいびり立てていました。この場面で、町奴の唐犬権兵衛が仲裁に入り、親子を救う展開になります。しかし、この場面は現在の上演ではあまり見られなくなっています。

酒が入った白柄組の侍たちが舞台で騒ぎを起こし、混乱に陥ります。そこに町奴の親分、幡随院長兵衛が登場し、白柄組を叩き出します。これにより、白柄組の頭領である水野十郎左衛門は長兵衛に恨みを抱くことになります。

第二幕

続く花川戸幡随内の場では、水野家から家老の水野主膳が登場し、長兵衛に主君が迎えに来ているという指示が伝えられます。長兵衛はそれを無視し、幕府の名誉を重んじ、白柄組と対峙する決意を固めます。涙ながらに家族や子分たちと別れ、水野の屋敷へと向かう姿は非常に感動的です。

第三幕

水野邸で行われる酒宴の場では、長兵衛が歓待される一方で、黒沢が意図的に長兵衛の服に酒をこぼし、入浴を勧めます。しかし、これは長兵衛を暗殺する策略の一環であり、彼が湯殿に入るとき、襲撃が待ち受けています。長兵衛は強い信念を持って命を差し出す覚悟を述べる名台詞を残します。その潔さに水野も感心し、結局は長兵衛を貫かざるを得なくなります。

この後、長兵衛の部下たちは仇を討つために白柄組との壮絶な戦闘に突入します。水野が切腹するという結末は、時代背景を反映した厳粛なものであり、観客に深い感銘を与えます。

作品の背景

『極付幡随長兵衛』は、17世紀中期に実際にあった事件を元にしており、江戸時代の社会情勢や人々の思惑を表現しています。天下太平を謳歌する一方で、権力者たちが堕落し、町人たちとの対立が生じていました。長兵衛と水野の事件は、この時期の民と武士の葛藤を象徴しています。この作品はまた、金平浄瑠璃や浪曲、さらには映画などにもアダプトされています。

特色と演出

この演目の中には、歌舞伎特有の劇中劇の形式が取り入れられており、江戸時代の芝居小屋のような雰囲気を再現しています。初演時には、長兵衛の迫真のうめき声が好評を博しました。この表現は、過去の経験に基づくものであり、演技者の力量が問われる場面でもあります。長兵衛役を演じた九代目市川團十郎を始めとして、この役は多くの名優によって受け継がれてきました。特に、名台詞や特徴的な演技が多くの観客の心に残ります。

このように、『極付幡随長兵衛』は日本の歌舞伎の中で非常に重要な位置を占めており、伝統を体現しながらも現代に通じる様々なメッセージを持った作品です。

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