横山むつみ

横山むつみの生涯とアイヌ文化の伝承

横山むつみ（旧姓：知里）は、1948年に北海道で生まれ、アイヌ文化の継承者としての人生を歩みました。彼女の活動は、アイヌの人々が直面してきた差別や偏見を克服するためのものであり、その努力は彼女自身の体験にも深く根ざしています。

幼少期と教育

幼少期、横山は周囲の子供たちから「アイヌ」と言われ、精神的な苦痛を味わいました。特に江差町に転居した後は、同級生からの差別が続き、自身のアイヌのアイデンティティを強く意識するようになります。彼女は自身がアイヌであることを肯定的に受け入れることができずにいましたが、東京に進学する18歳の時、アイヌと和人との交流を目指す団体「ペウレ・ウタリの会」に参加することで新たな道が開けました。ここでの活動を通じて、横山はアイヌ文化への理解を深めると同時に、アイヌに対する社会的偏見をなくそうと決意します。

意義ある結婚と活動の拡大

1979年、横山はアイヌの音楽家横山孝雄と結婚しました。彼との出会いを機に、文化振興の活動にますます注力しました。1980年には、首都圏のアイヌたちが集い交流を深める場として、関東ウタリ会を設立。歌や踊り、刺繍など、アイヌの伝統文化を次世代に伝える取り組みを進めました。1986年には、自らの存在をアピールし始め、アイヌ文化の発信を続けます。

故郷への帰還と記念館の設立

1997年にアイヌ文化振興法が制定され、同年に東京にアイヌ文化交流センターが設立されると、横山は夫と共に故郷である登別に移住します。この移住には、先祖代々の土地で暮らし、アイヌの声を発信するという強い想いがありました。彼女はNPO法人「知里森舎」を設立し、アイヌ文化に関心を寄せる人々の受け入れを始めました。さらに、自身の伯母である知里幸恵に敬意を表し、その業績を広めようと活動を開始します。

2000年には「知里幸恵の世界展」を開催し、多くの来場者を迎えました。このイベントは、横山が計画した記念館の建設へとつながり、2000年以降、建設に向けた募金活動を展開します。多くの支援を受け、2010年に「知里幸恵 銀のしずく記念館」を開館し、初代館長に就任しました。

晩年の活動と遺産

横山は2012年に大腸がんが発見され、闘病生活を送りましたが、その中でも文化やアイヌの歴史について語り続けました。2016年7月には、知里幸恵に関する小説に寄稿するなど、精力的に活動していました。しかし同年9月、彼女は68歳でこの世を去りました。

葬儀ではアイヌ式の儀式が行われ、彼女の思いが尊重されました。彼女の死を惜しむ声は地域や文化界から多く寄せられ、彼女がアイヌ文化の継承に乗り出した貴重な証人であったことが再確認されました。

銀のしずく記念館は、その後も横山の長女が館長を継承し、この大切な文化の承継を続けています。横山むつみの生涯は、アイヌ文化の保護と発信において重要な役割を果たしました。彼女の業績は、未来に渡ってアイヌ文化を守り、次世代に伝えるための道しるべとなるでしょう。

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