樫田村

樫田村：府境を越えた合併の物語

かつて京都府南桑田郡に存在した樫田村は、現在では大阪府高槻市樫田地区として知られています。本稿では、その歴史、特に高槻市への合併という特異な経緯に焦点を当てて解説します。

誕生と地域性

樫田村は、明治時代の町村制施行（1889年4月1日）により、田能村、中畑村、出灰村、杉生村、二料村を統合して誕生しました。村名は、地域に鎮座する樫船神社の「樫」と、合併元の村の一つである田能村の「田」から取られています。この地域は、地理的にも経済的にも、隣接する大阪府高槻市との結びつきが深く、古くから密接な関係を築いていました。

高槻市への合併：住民の強い願いと複雑な背景

1950年代、南桑田郡では18町村による合併構想が浮上しました。郡内の多くの町村が亀岡市への合併を検討する中、樫田村は住民投票を経て、高槻市への合併を圧倒的多数で決定しました。この決断の裏には、幾つかの重要な背景が存在します。

一つは、府境と分水界の不一致による問題です。樫田村は、地理的に大阪府との結びつきが強い一方、行政的には京都府に属していました。この府境の不自然さは、幾度も発生した水害への対応において、京都府の対応の遅れや不十分さといった問題を顕在化させました。これらの問題は、住民の強い不満につながりました。

さらに、当時の京都府知事である蜷川虎三氏の対応も、住民の府への不信感を募らせる要因となりました。京都府議会議事録からは、知事による樫田村への具体的な慰撫策や積極的な働きかけは、ほとんど確認できません。住民の約8割が高槻市への合併を望んだという事実からも、府の対応に対する住民の失望が伺えます。

府境を越えた合併という異例の事態のため、関係各所では慎重な検討が行われましたが、最終的に1958年4月1日、樫田村は高槻市に編入合併されました。これにより、樫田村は消滅しました。

越境合併と府県境の変化

樫田村と高槻市の合併は、府県境を越えた合併という点で、大きな歴史的意義を持っています。合併以前、地図上の府県境は比較的平坦な線で描かれていましたが、合併後は、大阪府高槻市北部が凸状に、京都府南西部が凹状に変化しました。この凹凸のある府県境による越境合併は、樫田村の合併が日本初のものでした。

まとめ

樫田村の歴史は、地理的・経済的現実と行政区分、住民の意思、そして時代背景が複雑に絡み合った結果として、府境を越えた異例の合併という形で幕を閉じました。この事例は、地方自治体の合併における住民意識の重要性、そして行政の対応のあり方について、多くの示唆を与えてくれます。樫田村のケースは、日本の地方自治史において、特筆すべき重要な出来事として記憶されています。

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