機械彫刻用標準書体

機械彫刻用標準書体とは

機械彫刻用標準書体は、日本産業規格（JIS）によって定められた、彫刻に使用する文字の書体です。具体的には、JIS Z 8903（常用漢字）、JIS Z 8904（片仮名）、JIS Z 8905（数字とアルファベット）、JIS Z 8906（平仮名）の各規格で、それぞれの文字の形状が規定されています。

規格の概要

これらの規格は、彫刻盤に文字を彫る際の字形を定めるもので、手動式彫刻機での作業効率を考慮した設計が特徴です。JIS Z 8903は1969年に最初の規格が制定され、1981年の常用漢字表の告示を受けて1984年に改正されました。これは、漢字を定めるJIS X 0208よりも古い規格です。

規格では、文字のストロークのみが定義されており、このストロークに規定の太さで肉付けを行うことで、彫刻される文字が完成します。手動式彫刻機で使用される原版の損傷を抑制し、作業効率を向上させるため、跳ねが省略されるなどの特徴があります。例えば、「幺」の右下を繋げたり、「乗」の中央を「丗」のように表記したりするなど、点画が連続した字形が見られます。

略字について

JIS Z 8903の付属書2では、漢字の略字に関する規定があります。ここでは、「第」の略字である「㐧」や、「職」の略字である「耺」など、一般にも知られる略字が規定されています。これは、彫刻する文字が複雑な形状の場合、判読が困難になることを防ぐための措置です。

付属書2では、以下の様な略し方が定められています。

「酉」の略し方: 4画目「丿」と5画目「乚」を縦棒「丨」で1画目から6画目に接する形で表現します。例えば、「猶」、「尊」、「遵」なども同様の処理が適用されます。
「雨」の略し方: 中の点を省略し「丷」の形で表現します。
「馬」の略し方: 中の「灬」を右上がりの「一」で表現します。
「臣」,「監」,「三」の略し方: それぞれ片仮名の「リ」、「ケ」、「テ」で表記します。
「口」が横に二つ並んだ要素の略し方: 「口」の中央に縦棒「丨」で表記します。
「機」の「幺」2つの略し方: 「丷」の形で表現します。
「選」の「己」2つの略し方: 「ツ」の形で表現します。
「簿」の「尃」の略し方: 「云」で表記します。
「職」の略し方: 「耺」で表記します。
「属」と「嘱」の「尸」の中の「禹」の略し方: 「虫」で表記します。
「質」の「斤」の略し方: 1つにします（=貭）。
「事」の略し方: 「亊」で表記します。
「第」の略し方: 「㐧」で表記します。

1969年版では、これらの略字体のみが規定されていましたが、1984年の改正版で通用字体が追加され、そちらが標準となりました。略字体は、文字の大きさが5mm以下の場合や、注文者の指定がある場合に使用されることになりました。

参考資料

日本産業規格『機械彫刻用標準書体（常用漢字）』JIS Z 8903、1984年。
日本産業規格『機械彫刻用標準書体（当用漢字）』JIS Z 8903、1969年。
日本産業規格『機械彫刻用標準書体（かたかな）』JIS Z 8904、1976年。
日本産業規格『機械彫刻用標準書体（アラビア数字・ローマ字）』JIS Z 8905、1976年。
日本産業規格『機械彫刻用標準書体（ひらがな）』JIS Z 8906、1977年。

関連項目

略字
機械彫刻用標準書体フォント - 個人が作成したフリーフォントで、一部の漢字字形はJIS規格と異なり、独自に調整されています。

もう一度検索