歌川国政

初代歌川国政：江戸後期の浮世絵師、その短い生涯と鮮やかな画風

初代歌川国政は、江戸時代後期を代表する浮世絵師の一人です。安永2年（1773年頃）奥会津（現在の福島県）に生まれ、文化7年（1810年）に38歳という若さで亡くなりました。短い生涯でしたが、その作品は高い評価を受け、現在でも多くの人々を魅了しています。

染物職人から浮世絵師へ

国政は、当初は紺屋の染物職人として生計を立てていました。しかし、芝居好きが高じて役者似顔絵を描くようになり、その才能は評判を呼びます。やがて、当時の浮世絵界を代表する存在であった初代歌川豊国の門下に入り、画業を本格的にスタートさせました。豊国の最初の弟子であったとも言われています。

寛政7年（1795年）11月には、歌舞伎の舞台を題材にした作品でデビューを果たしました。しかし、それ以前から画業に携わっていた可能性も示唆されています。黄表紙『昔料理狸吸物』には、国政の似顔絵に高い評価が与えられていたという記述があるからです。

国政は、芳町、堀江町、市ヶ谷左内坂上など、江戸の様々な場所で生活を営んでいました。

近代性を感じさせる画風

国政の役者絵は、独特の画風で知られています。線描によって濃淡を巧みに表現し、平面的な色の組み合わせの中に立体感を生み出すという、近代的な技法を見ることができます。師である豊国をも凌駕する才能を持つと評されることもありました。

活動期間は約10年間と比較的短く、その大部分は寛政8年（1796年）から寛政11年（1799年）の4年間に集中しています。文化3年（1806年）頃には引退し、歌舞伎役者の面売りに転身したと伝えられています。しかし、その面売りの記録は現存しておらず詳細は不明です。

国政の作品は、約120点ほど現存しています。その多くは役者の錦絵で、美人画や挿絵は少ないのが特徴です。作品には質のばらつきがあり、最高レベルの傑作と、凡庸なもの、あるいは稚拙な作品が混在しています。しかし、彼の「大首絵」に見られる役者の表情描写は、単なる美化にとどまらず、研ぎ澄まされた感性と鋭い観察眼が感じられ、他の追随を許しません。

肉筆画では「美人画」を中心に、上品で繊細な描写に独自の才能が光ります。

代表作品

国政の作品は、多くの美術館や博物館に収蔵されており、その代表作としては以下のようなものがあります。

錦絵:

「市川男女蔵の長尾三郎かげかつと三代目市川八百蔵の横蔵」
「二世中村野塩の五斗兵衛女房とく女」
「炬燵の娘と猫」
「三代目市川八百蔵の梅王丸」
「六代目市川団十郎」
「松本米三郎」
「大谷徳次」
「三味線の糸を替える美人」
「三世沢村宗十郎」
「市川鰕蔵の暫」
「グニャトミ（初世中山富三郎）」

肉筆浮世絵:

「隅田川舟遊図」
「遊女と禿図」
「松風村雨図」
「書斎美人図」
「役者大首似顔絵巻」
「好色十二図」

版本:

『廓通遊子』
『俳優楽室通』
『傾城買二筋道後篇廓の癖』
* 『白狐通』

中でも、師である豊国との合作である『俳優楽室通』（寛政11年）は、国政の初期の作品を知る上で貴重な資料となっています。

歌川国政とその後の系譜

初代歌川国政の後、二代目は初代歌川豊国の門人で後に二代目歌川国宗を名乗り、三代目は初代歌川国貞の門人で後に四代目歌川豊国を名乗るなど、国政の名はその後も受け継がれていきました。五代目は初代歌川国政の門人で長男であり、竹内柳蛙と号しました。

初代歌川国政は、短い生涯の中で多くの傑作を残した、江戸時代後期の重要な浮世絵師の一人と言えるでしょう。彼の作品は、現在も世界中の美術館や博物館で高く評価され、研究されています。

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