正しい日 間違えた日

『正しい日 間違えた日』は、韓国の鬼才、ホン・サンス監督が2015年に発表したドラマ映画です。本作は、監督自身と女優キム・ミニの初めての合作として知られており、彼らの私生活にも大きな影響を与えた作品と言われています。

物語は、主人公である映画監督チュンスが、予定よりも一日早く水原に到着するところから始まります。そこで彼は、魅力的で謎めいた女性ヒジョンと出会います。予期せぬ出会いは、チュンスの予定を狂わせ、彼の日常に波紋を広げていきます。ヒジョンとの交流を通じて、チュンスは自身の過去や現在の生き方について深く考えさせられることになります。

ホン・サンス監督独特の、日常的な出来事の中に潜む人間の感情や葛藤を繊細に描いた本作は、観る者の心に深く刻まれる作品です。セリフのやり取りや、登場人物の微妙な表情の変化など、細部まで丁寧に描かれた演出は、まるで静謐な湖面に浮かぶ小さな波紋のように、観る者にゆっくりと、しかし確実に感情移入させていきます。

キャストには、韓国映画界を代表する実力派俳優であるチョン・ジェヨン、キム・ミニ、そしてコ・アソンが出演しています。特に、チョン・ジェヨンは本作での熱演が評価され、ロカルノ国際映画祭で主演男優賞を受賞しました。さらに、第35回韓国映画評論家協会賞と第9回アジア太平洋映画賞でも主演男優賞を受賞するなど、彼の演技は高く評価されています。

『正しい日 間違えた日』は、単なる恋愛映画という枠を超えた、人間の生き方や時間、そして偶然と必然について問いかける、深遠な作品です。ロカルノ国際映画祭での受賞は、その高い芸術性を証明しています。同映画祭では、日本の名匠・濱口竜介監督も自身の作品『ハッピーアワー』を出品しており、そこで本作を鑑賞した濱口監督は、ホン・サンス監督を「真の現代の巨匠」と評しています。この評価からも、本作の質の高さがうかがい知れます。

本作は、ホン・サンス監督とキム・ミニの私生活においても大きな転換点となりました。作品を通じて生まれた二人の関係は、映画史に新たな一章を刻むこととなり、映画ファンの間で長く語り継がれることになるでしょう。映画を通して、人間の複雑な感情や、予想外の出会いがもたらす変化を深く味わえる、そんな作品です。静謐で、しかし深い余韻を残す、まさに名作と言えるでしょう。

もう一度検索