歩いても 歩いても

映画『歩いても 歩いても』：家族の絆と喪失の物語

2008年、是枝裕和監督によって世に送り出された『歩いても 歩いても』は、日本[[映画]]史に輝く名作の一つです。阿部寛を筆頭に、夏川結衣、樹木希林、原田芳雄ら実力派俳優陣の繊細な演技が光る本作は、一見穏やかな日常の中に潜む家族の複雑な感情や、過去と現在が交錯する様を静かに、しかし深く描き出しています。

物語の中心となるのは、15年前に亡くなった兄の命日に実家に帰省する横山良多とその家族です。良多は失業中で、再婚相手であるゆかりとの間には連れ子がいます。義母との関係も良好とは言えず、良多自身も父親との確執を抱えています。

一方、良多の両親もまた、それぞれに抱える問題を抱えています。父・恭平は引退した開業医で、跡取り息子を望みながらも叶わず、不満を抱えています。母・とし子は、亡くなった長男の事故死をいまだに深く悲しみ、事故を起こした若者への怒りを抑えきれません。

良多の姉夫婦もまた、実家への同居を望んでいますが、母の反対により実現していません。このように、それぞれの事情を抱えた家族が、実家で集い、表面上は穏やかな時間を過ごしますが、その裏にはそれぞれの苦悩や葛藤が潜んでいます。

墓参りのシーンでは、事故を起こした若者が線香をあげに訪れ、緊張感が走ります。良多は若者を呼ぶのをそろそろやめようと提案しますが、母・とし子はそれを拒否します。悲しみと怒りをぶつける相手を失いたくない、という彼女の心情が痛いほど伝わってきます。

それから7年後、両親は亡くなり、良多とゆかりの間には娘が生まれています。再び家族で墓参りに訪れた良多は、娘に祖母の話を聞かせます。このシーンは、過去と未来、そして世代を超えた家族のつながりを象徴的に表しています。

是枝裕和監督の繊細な演出と、俳優たちの魂を揺さぶるような演技によって、『歩いても 歩いても』は単なる家族ドラマの枠を超え、普遍的な人間の感情や家族のあり方について深く考えさせる作品となっています。静けさの中に秘められた複雑な感情の揺らぎ、そして時間の流れの中で変化していく家族の姿は、観る者の心に深く刻まれることでしょう。

数々の映画賞を受賞したことも、本作の質の高さを物語っています。第56回サン・セバスティアン国際[[映画祭]]脚本家協会賞、第4回ユーラシア国際映画祭最優秀監督賞（是枝裕和）、第23回マール・デル・プラタ国際[[映画祭]]最優秀作品賞など、国内外で高い評価を受けています。樹木希林さんの名演は特に高く評価され、多くの助演女優賞を受賞しました。

『歩いても 歩いても』は、家族の絆、喪失、そして許しをテーマに、静かに、しかし深く心に響く感動的な物語です。一度観たら、忘れられない作品となることでしょう。

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