歴史地理学会

歴史地理学会

歴史地理学会（英語名称: The Association of Historical Geographers in Japan）は、日本における地理学研究分野、とりわけ歴史地理学を中心とする研究を推進し、その成果を広く共有するための主要な学術団体の一つです。学会は、関連分野の研究者間の交流を促進し、歴史地理学の発展に寄与することを目的として活動しており、その公式な機関誌として『歴史地理学』を発行しています。

設立とその経緯

本学会の起源は、1958年4月29日に結成された「日本歴史地理学研究会」に遡ります。この研究会が誕生した背景には、当時の歴史地理学を取り巻く学術的環境が深く関わっていました。一つには、海外で展開されていた歴史地理学における新たな理論や研究方法に関心を持つ日本の研究者たちが、これらの知見を詳細に研究し、それを日本の歴史学や従来の地理学におけるアプローチとの違いを明確にしながら議論していく必要性を感じていたことが挙げられます。彼らは互いに協力し、この分野の研究を深めるための活動拠点を求めていました。

もう一つの重要な背景は、当時すでに存在していた日本の主要な地理学関連学会においては、歴史地理学分野で行われた研究の成果を発表し、学術的に正当な評価を受けるための場が必ずしも十分であるとは言えない状況にあったことです。日本歴史地理学研究会は、こうした状況を改善し、歴史地理学の研究者が自らの研究成果を世に問うことができる、また活発な議論を通じて研究を発展させることができる専門的なプラットフォームを構築することを目指して設立されました。

研究会の活動が進む中で、組織の名称をより公式な「学会」とすることへの要望が高まりました。これを受けて、1966年に名称が現在の「歴史地理学会」へと変更されました。この改称にあたっては、すでに「日本歴史地理学会」という同名の学術組織が存在していたため、混同を避ける目的から、新たな名称には「日本」を冠さず「歴史地理学会」とすることが選択されました。これにより、独自性を保ちつつ、学術団体としての位置づけを明確にしました。

主な刊行物とその変遷

歴史地理学会は、学会の活動を支え、研究成果を会員や関係者に伝えるために複数の刊行物を発行してきました。主要なものとして、学会の機関誌である『歴史地理学』と、かつて刊行されていた論文集『歴史地理学紀要』があります。

機関誌『歴史地理学』: この学術誌は、学会の中心的な刊行物です。設立当初は『会員通信』という名称で、主に学会大会の予告や会員向けのお知らせといったニュースレター的な性格が強いものでした。しかし、1974年5月に発行された第74号からは『歴史地理学会会報』と名称が変更され、これ以降、研究論文の掲載数が増加し始め、学術誌としての性格を強めていきました。さらに1980年6月発行の第109号をもって、現在の『歴史地理学』という名称に改められました。この名称変更後も、学術論文を掲載する主要な媒体としての役割は継続・強化され、1991年度以降は、本学会が定期的に刊行する唯一の主要な学術刊行物として、歴史地理学分野の最新の研究成果を発信する重要な役割を担っています。

『歴史地理学紀要』: 本紀要は、1959年から1990年までの期間にわたって刊行された論文集です。この刊行物の特徴は、発行年ごとに特定の学術的なテーマがあらかじめ設定され、そのテーマに関連する研究論文が編集・収録されていた点にあります。これにより、特定の課題や研究動向に焦点を当てた集中的な議論や研究成果の集積が図られました。現在は刊行されていませんが、当時の歴史地理学研究の動向や主要なテーマを知る上で貴重な資料となっています。

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